REGENERATION

１

　見えるものとてない広大な砂の海。その真ん中でクラウドは胡坐をかいてすわっていた。背中をわずかに丸め、顔だけをまっすぐあげて遠くを見つめている。
　枯渇した大地と雲もない薄い大気。太陽はまだ輝きを失ってはいないものの、この星を温めなおすほどの力はない。月は粉々に砕け、塵となって星のまわりに輪を作っていた。クラウドの目には、薄い大気を透かしてその輪が地平線に突き刺す槍のように立っているのが見える。
　海もなく、大陸もなく、地衣類ひとつ見あたらないここは息絶える寸前の星だった。
「あーあ」クラウドは溜息をつき、「ライフストリーム、なくなっちゃったな。もう、おれとおまえだけだよ。どうする？」とかたわらに突き立てた大剣に向かって問いかけた。
　その剣は透明な刃を持ち、薄暮のような太陽の光にもきらきらと輝いている。それはアルテマウェポンと呼ばれ、永遠とも思える遥かな昔に星から生まれたものだ。長いあいだクラウドとともに生きてきた剣だったが、もちろん人ならぬ身のそれが応えるわけもない。
　クラウドは構わず続けた。「どっか別の星行くか？　でも、そこのライフストリームがおれたちに合う性質のものじゃないとまずいんだよな……第二のジェノバにはなりたくないし」
　かつての宿敵の名にも剣は反応しない。
「おれ、チョコボ頭って言われつづけてきたけど、それでも首がないよりましだろ……」そこで彼は苦笑した。「ああ、そうか、ジェノバも初めから首がなかったわけじゃなかったっけ」
　なにもない星には風ひとつ吹くこともない。砂の海は沈黙し、その静謐な風景は天にも届くほどの大都市がそこにあったとは到底信じられないほどだ。
「なあ」クラウドは空を仰ぎ、そのままばたりと後ろに倒れた。「おれ、冗談言ったんだけど、ちょっとぐらい笑うとか、寒いとか、なにか反応してくれないか？」
　アルテマウェポンはただそこに突き立っているだけだ。
「……やっぱり寂しいな」クラウドは目を閉じた。
　大の字になって転がっていると、寿命の近い星の、それでもまだかすかなライフストリームの気配が感じられる。
　本当にかすかな、しかし、暖かい想い。
　星とクラウドを置いてどこかへ行ってしまったそれらが大地に香りだけを残していったのだろう。
　昔、そこは青々とした自然豊かな星だった。
　人々の文明は何度も大きくなり、いくつもの山が削られ、広大な森の木々は切り倒され、海は埋め立てられ、川は堰き止められ、あるいは流れを変えられたが、そのつど星は、何度も何度も滅亡の危機から立ちなおってきた。
　そして何度も何度も人々は生まれた。
　自然の力に人は敵わないという。だが、人も自然の一部だ。ともすれば星の命を縮めるまでの力を発揮しもするし、星を救う力を引き出すこともある。
　危ういながらもバランスを取りつつ、星はみなといっしょにここまで生きてきた。
「寿命だもんな」クラウドは目を瞑ったまま小さく呟いた。「終わりかたとしては悪くないだろ。ただ、おれみたいな余計なものが残っちゃったけど」
　彼は両手をまっすぐ広げ、そのまま星に溶けたいとでもいうように全身の力を抜いた。
「ちょっと眠らせてくれな。明日は……今度起きたら、また歩こう。それしかできることないし」
　クラウドはそのまま眠りに入った。
　あたりには灰色の空と、薄い太陽と、そして白い砂漠があるだけだ。
　なにも動かず、なにも起こらず、長い時間が過ぎた。
　ただ、大地に突き立ったアルテマウェポンのその透明な刃がほんのわずか輝きを増しただけ。
　まるで涙の滴のように、その光がひとつ、砂の上に落ちた。