REGENERATION

１

　曇った空、霧にけぶる大地。
　まだどこもかしこも原始的な自然の放置されたこの星ガイア。
　緑は少なく、ジェノバ細胞がばらまかれているわけでもないというのにモンスターは多い。
　若い星であるだけに生命力はかなりあるはずだった。それなのに、動植物の繁殖も人々の文明も遅々たる歩みを見せている。この星の中心にある、いわばライフストリームを吸収して星の生命力に変えるクリスタルが満足に機能していない証拠だ。
　それもそのはずで、この星は半分乗っ取られているようなものだった。異次元に存在するテラという老いた星。その星にライフストリームが漏洩しているのだ。
　この異次元のずれやテラの干渉をなんとかしない限り、この星に未来はない。
　だが……。
　セフィロスは岩場に腰かけ、上空を見つめていた目をかたわらに移した。そこには毛布にくるまり、のほほんと寝息を立てているチョコボ頭がある。
　視線を感じたのか、クラウドはもぞもぞと毛布の中で手足を丸めたようだった。「……ス……」
　セフィロスはわずかに身を屈め、その寝言を聞き取ろうとする。
「ックス……」
　ザックス？　あいつの夢でも見ているのだろうか。それとも、やはりまだ寂しいのか。
　思えば自分たちが生まれた星はすでに老衰で死に絶え、いまは宇宙空間に浮かぶ岩のかたまりにすぎない。それもじきに太陽風に散らされ、塵となって輪になるだろう。
　星が生まれ、生命が生まれ、ライフストリームが循環し、動植物の溢れる大地が生まれる。そして進化、文明の隆盛。そうしたことを何度も繰り返し、星はやっと一生を終えるのだ。
　その長い時間、永遠と思える年月を、クラウドはひとり、星の上で過ごした。
　もちろん孤独ばかりではなかったと思う。
　その時どきの人間たち、生きものたちがいたはずだ。友人を作っては別れ、出会い、想いあい、少しでも思い出を集めるため、クラウドは明るく軽やかな性格になった。とは本人の弁だが……ことあるごとに自分――セフィロスを振りまわすのはやめてほしいと思う。
　だが、そんなふうに楽しげにはしゃいでいても、やはりいちばん最初の友人というものは忘れられないものなのだろうか。
「ザックス……」また寝言が再開される。「た……くれ……セフィロスがいじめる……」
　セフィロスはチョコボ頭を蹴り飛ばした。
　クラウドは毛布にくるまったまま岩場の下へと転がり落ちる。
　やがて、「ちくしょう」と斜面を這い登ってきた。「いきなり、なにしやがる！」
「都合のいい夢を見るな！」
「夢ぐらい、都合のいいもの見たっていいだろ」クラウドはチョコボ頭をかきまわし、ひとつ欠伸をした。「ちぇっ、目が覚めちゃったらしょうがないや。行こうか」
「どこへ」
「どこでもいい」クラウドは毛布をくるくる丸め、荷物といっしょに括った。「おれ、起きたら歩くことにしてるんだ」
　食うことにしているのかと思った。
「あ、山ブリ虫だ」クラウドは呟き、片手でぱっと岩の表面を叩いた。摘まんでみせたのはノミの親玉といった感じの昆虫だ。「うまいんだぞ。こう、こんがり焼いてな」とファイアを呼び出し、手のひらの上で実践してみせる。「殻ごと、ばりばり食うんだ。ほら」
　セフィロスは目の前に差し出されたそれを見つめた。「俺に食えと？」
「食ってみろって、うまいから」クラウドは真剣な目で頷く。
　セフィロスはおそるおそるそれを受け取った。
　ほらほら、とクラウドが食えとばかりに手を振ってくる。
　騙されているような……いや、しかし、確かにこんがり焦げた香ばしい匂いはしている。いずれにせよ、食えるかどうかはともかく、ここでいらんと捨てては、こいつはまた泣き真似で俺を困らせるつもりに違いない。
　くそ。セフィロスは慎重に足をかじってみた。
　ギザギザした異様な感触と苦味に、彼はたちまち吐き出す。
　クラウドが笑った。「やった、ほんとに食うとは！」
「………」どちらにしても、からかうつもりだったのか。
「あ」とクラウドは笑い声を止めて上空を振り仰いだ。
　霧で濁った夜空を、ひときわ黒い雲がひとかたまり、ゆるゆると移動してきている。
「テラの飛空艇だな、あれ」
「またあいつか？」セフィロスは唇を歪めた。
「今度、どこ行くんだろう」クラウドは指さした。「あいつ、あっちこち拠点持ってるみたいだしさ。片っ端から潰してまわるのも面白そうじゃないか？」
「悪戯っ子だな」
「ああいう生真面目でえらそうなの見ると悪戯したくなるんだ。あたりまえだろ」
「あたりまえにするな」
　クラウドは途端に口を閉じ、まじまじとセフィロスを見あげてきた。
　なんだ？
「あんた」クラウドは奇妙なものを見るような目をして顔をしかめる。「まだどこか常識的だよな」
「それのどこがいかん」
　溜息を抑えるようにクラウドはチョコボ頭を左右に振った。「どこか外れてないと、セフィロスとは言えないのに……」
　どういう意味だ。「いまは、おまえが外れっ放しだな」
「そう。長年のうちに頭に花が咲いちゃって」なぜか素直に頷くクラウド。これでは嫌味を言う甲斐がないではないか。「おれ、あんたを見習うことにしたんだ。なにがあろうと我が道を貫くってね。ただ問題は、我が道ってのがはっきり決まってないってことなんだけどさ」
「それでは信念にはならんぞ」
「でも、これだけは、はっきり決まってるんだよ。あんたと再会した以上、必ず決着をつける！」
「ついたのではないのか」
　またクラウドは訝しげに振り仰いできた。「あんた、それでいいの？」
「なにが」
「おれに負けたまんまでいいのかってこと」
　負けた……ことになるのか？
　どうも、そのあたりの記憶は曖昧だ。「こうして仲よく肩を並べて旅をしているぶんには、あまり考えなくていいことではないのか？」
「じゃ、仲よくする気はあるんだ？」
　いったい、喧嘩したいのか、仲よくしたいのか、どちらなのだ、こいつは。「ない」
「ちぇっ」