DISSIDIA CAMPUS
School excursion
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「突然ですが、修学旅行ですわ！」
例の高笑いと同時に、我らが担任のシャントット先生はそう宣言した。
アルティミシア城の教室を借りてのホームルームの最中だ。一瞬、きょとーんとして、それぞれの格好で動作を止め、担任を振り返った十人の生徒たちがいる。
スコールはガンブレードを磨く手をそのままに、光の戦士は鋭い剣先を天井に突き刺したまま、フリオニールはオニオンナイトの帽子を掴もうとして、あいだにいたチョコボ頭にタックルする格好で、クラウドはタックルされて斜めになった状態、追いかけられていたオニオンナイトは帽子を押さえて転びそうになる海老反りで、ティナは通りすがりのモーグリをしっかりと抱き、ジタンはそのモーグリのボンボンをいじっていた。セシルは優雅にお茶を入れていた途中、ティーダはお茶請けのクッキーを鷲掴みにしていたところだ。
バッツはそのテーブルの下で、菓子くずをまき散らしているボコを両手で捕まえていた。地面に寝そべる格好のまま、彼はボコに突つかれながらぼんやりと口をひらく。「じゃ、おれたち――」
「卒業はまだですけどね」シャントットは、ちっちっと人差し指を振った。「あなたがたヘッポコ君たちが学業よりもバトルに精出してくださるおかげで、予定よりも遥かに早く旅行積立金が溜まりましたの。じつのところ、ルフェインのシドにこのお金の存在を突き止められますとちょっと困ったことになるので、このさい、思いきり使ってしまおうと」
「ちょっと待ったあ！」ジタンがモーグリのボンボンを引っ張って叫んだ。「それって、おれたちが汗水垂らしてバトルで稼いだ金じゃ――」
「でも、それだけじゃ旅行資金なんか溜まらないんじゃないか？」フリオニールはクラウドのチョコボ頭の上で腕組みし、顔をしかめる。「いったい、どうやって」
「お金というものは、叡智のすべてをこの身に修めたわたくしでも予想がつかない仕組みがありますのよ」シャントットは、おほほと得意げに笑う。
「賭博だな」クラウドが呟いた。
「賭博だね」とオニオンナイトも納得したように頷く。
「あんた、陰でバトル賭博の元締めしてたのか！ あの八百長と噂の高い！」とバッツも立ちあがった。その拍子にテーブルがひっくり返り、お茶の道具とクッキーが飛び散らかったものだ。
ちなみにセシルはソーサーごとカップを手もとに引き寄せており、テーブルがなくなったにもかかわらず優雅に足を組んで椅子に坐ったまま、お茶をひとくちすすった。「僕はそれで結構、稼いだからいいけど」
天井に刺さって抜けなくなった剣を引っ張っているＷＯＬの横で、スコールがガンブレードに何事かを相談しているかのように沈黙していた。
「あらあら」シャントットはロッドをぽんぽんと手に当てながら生徒たちのあいだを歩きまわった。「八百長とは人聞きの悪い。わたくしはただ、バトル開始時のみなさんの装備とスキル情報を売買して儲けただけですわ。そのおかげで、あなたたちは修学旅行にタダで参加できるんですのよ」
「なーんか」オニオンナイトはぽりぽりと帽子の下で頭をかいた。「押しつけがましいっていうか」
「絶対、企んでそうっすね」ティーダも残りのクッキーを口に放りこみながら呟く。
「お黙り」シャントットはティーダを蹴りつけ、オニオンナイトを転がした。「毎日毎日、懲りもせずに授業をすっぽかし、研究課題そっちのけでバトル三昧しているあなたたちに、わたくしの決定に反対する権利はございませんわ。あなたたちはわたくしの教育方針に従う義務がございますのよ。ほーほっほ」
「いったいこの学校、なにが義務でなにが権利なんだ？」
フリオニールの呟きに、クラウドはチョコボ頭を揺らして首を振った。「さあ？」
シャントットはとことこと歩きまわる。「言っておきますけど、修学旅行ですからね。決して卒業旅行ではありませんことよ。帰ってきたら、訪問した世界についてのレポートを五十枚みっちり書かせますから、覚悟して参加のこと！ 以上！」
「覚悟してって……その旅行、強制だろ」
「質問！」ティーダが元気よく手をあげた。「訪問した世界ってことは、この学園以外の場所へ行くってことっすか？」
肩越しに振り返り、シャントットは不機嫌そうに目を細める。「わたくし、修学旅行と申しあげましたわよね？」
小さな先生の視線の先は、偶然、クラウドとフリオニールのほうに向けられていた。
しぶしぶとチョコボ頭が頷く。「まあ、そうかな」
シャントットは、ぱんぱんと手を叩いた。「ということは、つまり旅行ですわ。学園の中をぞろぞろ歩きまわるのはただの散歩でしょう？」
「ってことは！」ティーダが思わず両拳を作ってしまう。
同時にバッツがボコとともに飛びあがった。「ここから出られる！」
「やった！」とジタンも跳ねたものだ。
ティナもモーグリを掲げて喜んだし、オニオンナイトとフリオニールも声をあげている。無口なＷＯＬ、スコール、クラウドも、無反応ではあったもののなにも異議を唱えなかったし、セシルもにっこりと微笑んだ。
その生徒たちを満足そうに眺めやり、シャントットも頷く。「うふふ……」
やがてティナが、モーグリを放してやりながら担任を振り返った。「あの……どこ行くんですか？」
「みなさんの知らない世界です」きっぱりとシャントット。
「あんたの世界じゃないだろうな？」ジタンがちょっと不安げに尻尾を立てて動きを止めた。
その隣でオニオンナイトが、ぞくっとしたように自分の肩をこすったものだ。「先生みたいなのがいっぱい、いたら……」
「なにを想像しているのかわかりませんけど」シャントットは自分の髪を撫でながら軽く吐息をつく。「行く先はグラン=パルスというところですわ」
「そこはどんな？」
きらりと丸い目を光らせる担任。「ないしょ」
「先生も知らないだけじゃないのか？」バッツが疑わしげに彼女を見おろした。
「そのとおりですわ、文句ありまして？」胸を張ってバッツを見あげ、睨みつけるシャントット。「いくら修学旅行だからって、わたくしがわたくしの知っている場所に行ったって、わたくしが面白くないじゃありませんか」
「シャントット先生、思いきり生徒を放り出して楽しむ気満々？」オニオンナイトは不安げにクラウドを振り返った。
「そうしない彼女だと思うのか？」と最年長のクラスメートは冷静だ。
途端に、どーんと稲妻がチョコボ頭に落ち、クラウドは腕を組んだまま煙を出しながら後ろ向きに倒れた。
「というわけで、明日までにみなさん、旅行の用意をして秩序の聖域に集合のこと。遅刻は十秒までですわよ！」
言い捨てるように叫んで、シャントットは教室から出ていった。
しばらく、しんとした奇妙な空気が流れる。
だが、やがてバッツが両手を腰に背筋を伸ばした。「ともあれ、おれたちはこの学校から出られるってわけだ！」
「そうね」ティナが不安そうに、それでもうっすらと微笑みながら頷く。「わたし、みんなといっしょなら大丈夫」
「そうそう、ティナは僕が守るからね！」
「先生は旅行って言っただろ。旅とは違うんだ。もっと力抜けよ」バッツが、からかうようにオニオンナイトの帽子を叩いた。
「あんたはいつもお気楽すぎなんだよ」そう言いながら、オニオンナイトもちょっと嬉しいのか、バッツのスキンシップに軽いパンチでお返しをしている。
そうしてはしゃぐクラスメートたちを――特にバッツをじっと見つめてから、ジタンはスコールと視線を合わせた。
「絶対、迷子が出るな、この旅行？」
「………」