The education of the child

　ある日、宝条が地下にやってきた。
　ちょうど変身していたところだったので、思いきりビーストフレアを吹きかけてやったが、やつはぴんぴんしている。さすがは宝条だ。
「あまりに危険だったので、ルクレツィアをこの赤ん坊から隔離してしまったのだ。おかげで面倒を見る者がおらん。私は研究で忙しいし、スタッフにはなかなか懐かんし、どうせおまえ、暇だろう」
　そう言って、とっとと置いていったのは一匹の乳児。
　私はまだ、なにも返事をしていなかったというのに。もっとも返事をしようにも、変身していたから人間の声が出せなかったのだがな。
　私は人間に戻り、あらためて床の上でわたわたと手足を蠢かしている物体を見おろした。
　翡翠色の目が見あげてくる。
　……で、どうしろというのだ。
「名前は？」
「ぶうう」
「ぶうか」変な名前だ。
　私は部屋の中をぐるりと指し示し、トイレの場所やテレビのある場所など教えてやった。この地下に閉じこめられて数か月、少しでも快適なように多少改造してあるのだ。
「いいか、冷蔵庫はあの隅にある骸骨の載った箱だ。鍵はかかっていないから、腹が減ったら適当に食え……聞いているのか？」
　赤ん坊は、ばたばたと手足を動かしているだけ。
　ふむ、どうせ動けないのなら、なめくじのほうが料理になるだけましだというのに。
　そんなことを考えていると、赤ん坊はことんと首を横に向け、まだろくに見えないだろう目でこちらを睨みあげてくる。
　む、なにやら不穏な気配が。
　その次に起こったことは、私には、咄嗟には判断しかねた。
　なにしろ目の前でフレアの炎がはじけ、私の全身を黒焦げにしてくれたのだ。
　火傷はすぐ治るからいいが……服もマントもぼろぼろになってしまった。
　なるほど、あのルクレツィアが隔離されるはずだ。彼女であれば、「いけない子ね」とか言いながら、アルテマでお仕置きしたことだろう。この赤ん坊がそれでくたばるかどうか以前に、周囲が耐えられんはずだ。あるいは、宝条とならいい具合に均衡を保っただろうか。
　まあいい、とにかく、私のお気に入りのマントを一着だめにしてくれた礼ぐらいは、いずれ返さんとな。
　とりあえずそれまでは、この共同生活に目をつむってやろう。
「今日の夕飯はファニーフェイスの唐揚げだ。食うならリボンもつけてやるぞ。どうだ？」