SOLDIERS in FF12

ヘネ魔石鉱：
チョコボでしか行けない場所にある坑道。スイッチを駆使して進む迷路。
はぐれチョコボ：
ヘネ魔石鉱の入口でうろうろしているチョコボ。ギザールの野菜を持っていなくても乗れる。

　ヘネ魔石鉱は暗く、ミストが濃く渦巻いているにもかかわらず、いやだからこそ、ひんやりと湿っていた。
　多数のコウモリが棲息し、そのどれもが例外なく人間を襲ってくる獰猛なものだ。彼らの牙を避け、あるいはぶん取って奥へ進み、そしてまた帰ってくるのは、なかなかに骨が折れる。
　トマジは仲間たちといっしょに組合(クラン)の依頼であるモブを退治しにここへ入りこみ、ようようのことで仕留めた帰りだった。
　坑道は複雑で、ところどころフェンスによって遮断されているので、いちいちスイッチを切り替えなければならない。そのたびに大きな音がし、機械が動き、眠っていたプリンというモンスターが目覚め、群れとなって大量に降ってくる。逃げようにも身動きもままならないのだ。
　せっかくモブを退治したのに、ここで果ててなるものか、ラバナスタへ帰ってちゃんと依頼料をもらうんだと、トマジと仲間たちは必死で戦い、必死で密猟し、なんとか坑道の出口に辿りついたものだ。
　魔石鉱から出れば、オズモーネ平原は眩しいほどに晴れている。入ったときには雨だったんだが……まあ珍しいことでもない。この世界のマップは、ちょこまかと天気が変わるものなのだ。
　さて、とトマジはちょっと悩んだ。
　ヘネ魔石鉱はオズモーネ平原の中にある洞窟だが、ここに辿りつくまでにはチョコボしか知らない道を通らなくてはならない。行きはガリフの里でチョコボ屋ガーディに30ギルを支払い、チョコボを借りられたが、帰りはそうはいかない。どうしようか。こんな辺鄙な場所、誰も通りかからないだろうしな。
　そう考えていたトマジの目の前を、金色の羽毛が通りすぎた。
　まばたいてよくよく見れば、少年とも青年ともつかない金色の頭をした人間が、とことこと平原を横切っているところだ。
「あ、おい」トマジは思わず彼を呼び止めた。
　少年はぴたりと足を止め、くるりと振り返ってくる。「なんだ？」
　素晴らしく青い目をした少年だ。金髪はきらきらと輝き、つんつんと奔放にチョコボのように元気に跳ねている。
　トマジは彼のそばへ歩み寄った。と、彼らのあいだにナレーションが割って入る。
『仲間とはぐれて寂しそうだ。仲間のところに戻れるなら乗せてやってもいいと言っているらしい。このチョコボに乗りますか？』
「やかましい」少年はキャンセルボタンで素早くメッセージを消した。
「仲間とは？」トマジは訊ねる。
「いや、あいつらのことはいいんだ」少年は首を振った。「それより、ビュエルバってどこだ？　ティファの店に行きたいんだが」
「ティファって、女の人か？」
「ああ」
「彼女か？」
　少年は考えこんだ。「彼女は彼女だ。彼女を彼なんて呼んだらきっと怒る。まして、チョコボだとかクジラだとかもだめだ」
　よくわからないものの、トマジは頷いた。「ビュエルバは空中にある。徒歩では行けないぞ。羽でも生えていれば別だが」
　もっともこの少年なら、その気になればすぐに生えてきそうではあるけどな。でもチョコボは飛べないから、どちらにしろ無理か。
　少年はがっくりと肩を落とした。「そうか……やっぱりセフィロスがいないと、おれはだめなんだな」
「そう気を落とさなくても」トマジは慰めた。「テレポストーンも飛空艇に乗る金もないんだったら、ラバナスタまでいっしょに行かないか？　仕事も世話してやれるかもしれない」
「ラバナスタ……まさかウォールマーケットみたいなところじゃないだろうな？　仕事も女装とか、いかがわしくない？」
「いや、大丈夫。ラバナスタにはダラン爺っていう裏のボスとミゲロさんっていう表のボスがちゃんと風紀を守ってるし、コカトリスも遊びに来れる安全で平和な街だ。バザーにはスリが出没するかもしれないけどな」
「そうか、わかった」少年は頷いた。「そういうことなら、ラバナスタまでのボディガードをお引き受けしよう。でも安くはないぞ」
「砂海亭でワイルドザウルスの焼肉」
「いいだろう」
「俺はトマジだ。大抵、砂海亭で酒を飲んでいて、クランメンバーに登録しているものの、滅多にこうした討伐仕事は引き受けない男だ。その代わり、クランについての説明係という使命を負っているんだが、いつでも同じ話をするので、最後にはみんなに無視される」
「それもなんだか悲哀だな」少年はちょっと同情的に見つめてくる。「おれはクラウドだ。仕事は……仕事は……」
「ゆっくり思い出せばいいさ。急がず慌てずな」トマジは慰めるように彼の肩を叩いた。「それより、この陸の孤島のようなマップから出るのが問題なんだ。どこか、はぐれチョコボがいないかな」
「大丈夫だ」クラウドは自信たっぷり頷いた。
「でも、チョコボしか知らない道を通らなきゃならないんだぞ」
「じつは、おれはさすらいのチョコボ屋なんだ。手ぶらに見えるかもしれないが、マテリアという隠し珠を持っている。いつでもチョコボは用意できるんだ。それに、チョコボ寄せマテリアの効果がうまく働かなくても、ここから出る道は知っているから心配するな」
「ああ、うん……確かに、チョコボ屋だってひと目でわかりそうな格好（髪型）してるけど」トマジは頷いた。「なんでチョコボしか知らない道を知っているんだ？」
「企業秘密だ。訊かないでくれ。さあ行くぞ」クラウドは先に立って歩きはじめた。
　そうして平原じゅうのモンスターを蹴散らかし、黒チョコボを狩って羽根を集めつつ、まっすぐラバナスタへ辿りついた彼らである。
　道中、トマジはクラウドの無敵さに惚れこみ、頼まれずとも強引にクラン・セントリオのモンブランに紹介したものだ。
　その後、クラウドはラバナスタの砂海亭でバーテンをやっていたザックスと再会し、バザーで魚屋に化けてネブラ河の最高級魚を叩き売りしていたセフィロスをとっ捕まえ、クランチームを結成したのだった。