POWERHOUSE

タブロイド版神羅日報

　我らが神羅の英雄、セフィロス率いる最強チーム(パワーハウス)が、先日、アイシクルエリア、大空洞にてマスタートンベリの民族大移動を食い止めた。
　マスタートンベリたちはかなり恨みを抱えこんでいる様子で、その破壊力といえば、包丁で刺されるのとどちらがましかというほどである。
　しかし我らが英雄、セフィロスは怯まなかった。見事マスタートンベリを片っ端から大空洞に突き落としたのである。その後、我が神羅とマスタートンベリのあいだで不可侵条約締結の運びになった。
　近郊に住む雪女さん（三十六歳）は語る。「集団引越しですって？　ネズミだか魚だかモグラだかわからない人がお隣になるなんてごめんよ。ここら一帯が温泉になるよりひどいわ」
　なお同日同時刻、大空洞周辺で大きな地震があったもよう。そのため、びっくりしたアルテマウェポンが飛び出し、いまも空を飛んでいるという。

＊＊＊

　ぱりぽり……ぽりぽり……ぱりっ。
　ぼりぼり……がりっ、ごくん。
　………。
　ぽりぽりぽり。
　がりがりがり。
「いいかげんにせんか」セフィロスはついに新聞から顔をあげた。「どちらが食っているのかわかるような音を立てて、いつまでも食うな、馬鹿者！」
　クラウドとザックスは観音開きに破いた袋をあいだに、それぞれバナナチップスを摘まんだまま振り返ってくる。
　クラウドが手に持っていた菓子を口の中に放りこんだ。「耳がいいな、セフィロス」
「本当にどっちが食ってるかわかるのか？」
「わからいでか」セフィロスは、びしっとザックスに指を突きつけた。「手にしただけ、めいっぱい口に放りこみ、嚥下するまで時間のかかるザックス、それにクラウドは、栗鼠みたいに休むまもなく、こまめに口に手を持っていくだろう」
　クラウドがテーブルの上の菓子を見おろした。「どうりで減るのが早いと思った。ザックス、頬張るのやめろよな」
「そういうおまえこそ、ずっと喋らないと思ってたら、食うのに忙しかったんじゃねえか」
「あんたのほうがでかいんだから、ちょっとは遠慮してくれよ」
「なにおう、でかいからこそ食う量もそれなりに必要なんだよ」ザックスは、がしっと菓子を片手に掴めるだけ掴んだ。「だいたい、おれがおまえ以上に食ったって証拠があるのか」
「そうやって、どさくさまぎれに取ってくなよ」クラウドはその手にかじりつく。
「いててて、ほんとに歯を立てるな」
「よこせ、よこせ」
「やめんか！」
　セフィロスはふたりを引き剥がした。そのあいだでバナナチップスがぱらぱらと床に落ちる。
　わずかなぎこちない沈黙ののち、セフィロスはゆっくりと溜息を落とした。両手に黒と金の野生児を掴んだまま瞑目する。「ここは幼稚園か？」
「おれらの家だろ」ザックスが言い、クラウドも頷く。
「俺の書斎だ！　おまえたちが勝手に棲みこんでいるだけではないか！」
　セフィロスが絶叫したとき、バタンとドアがひらいた。そこから入ってきたのはツォンだ。
　再びクラウドとザックスがなにやら取っ組みあいを始めた横を、平然と彼は通りすぎてくる。「ルーファウスさまからの特別任務です」
「過去、特別でない任務があったか？」セフィロスは睨みつけながら、さし出された書類をひったくった。
「そうそう」とクラウドがザックスの髪をひっぱり、肩に足を突っ張りながら頷く。「誰もやりたがらないようなことばっかり押しつけてくるんだよな」
「そういう仕事させるんだからさあ。もうちっと、待遇ましにならないか？」ザックスもクラウドのチョコボ頭を掴み、頭突きを食らわしながら呟いた。ただ、あのつんつん頭が目に入ったらしく、すぐに悲鳴をあげてのけぞる。
　セフィロスはおもむろに頷いた。「そうだな、せめてこの書斎だけでも地下から脱出できんものか」
「あなたがた、そのものが神羅の機密事項なのです」
「にしては、タブロイドにはよく載っているが」
「あなたがたがトンベリを突き落とすついでにウェポンを解放してしまったことは伏せてあるでしょう」
「あれは、おれのせいじゃないぞ」クラウドがすかさず叫ぶ。
「おれのせいでもないからな」ザックスも並んで主張した。
「………」ふたりとも見境なく暴れたのを憶えておらんのか。
「ウェポンについては心配要りません。特定の都市上空のみで暴れることを承知させましたから。ほかの空域で飛空艇と出会っても、逃げることに徹してくれるそうです」それからツォンは、早口につけ加えた。「ウェポンがどこか都市の上空で止まっているときには、体当たりなどしないでくださいね」
「俺がそんなことをすると思うか？」
「いえ、あなただけでなく」と彼はチョコボ頭を見つめる。
　クラウドはちょうどザックスの腹に頭突きをかけていたところだ。
「わかった。よくよく注意しておこう」といっても、チョコボもクラウドも、走りはじめたら止まらんのだがな。

＊＊＊

タブロイド版神羅日報

　過日未明、ルクレツィアの祠にて、はぐれモルボルが発見された。近辺はものすごい異臭に汚染され、非常に大きな害を被ったが、このたび、我らが英雄、セフィロス率いる最強チーム(パワーハウス)の働きによって、モルボルは無事捕獲、ガイアの絶壁へと強制送還された。
　モルボルはピクニックがしたかっただけと供述しているが、悪意がなかったにせよ、くさい息でまわりを混乱に陥れた事実は否めない。
　我が神羅は、今後ガイアの絶壁から出てくるさいには、歯を磨くことを条件に一部入出国を認めた。
　ルクレツィアさん（？歳）は意味不明のコメントを残している。「うちの馬鹿息子より、クラちゃんのほうがずっと役に立つじゃない。モルボルを手懐けちゃうんだもの。やっぱりチョコボはアイドルね」
　なお同日同時刻、原因不明ではあるが、ルクレツァの祠のある湖の底が抜け、海と繋がってしまった。神羅では潜水艦ルートとして利用できる可能性を検討している。

＊＊＊

　グラスランドエリア。野生チョコボが走りまわり、そのチョコボを捕まえてはお手軽に飼育できるというので、チョコボファームは人気のスポットだ。初回特典でチョコボのダンスが見られるというのも魅力的だった。クラウドは特別に、仲間の証としてマテリアをもらっている。
　草が風になびき、レブリゴンとともに、ひょこひょこチョコボが歩いていくのは心に和む光景だった。たまに鳥キックや百烈突きをかまされるが、そのへんはご愛嬌だろう。
　しかし。
　チョコボファームはいま、阿鼻叫喚の中にあった。といっても、叫び声はチョコボたちのものばかりだが。
　ミドガルズオルムが走りまわる黄色い鳥の群れのなか、ぐるりと長大なその蛇の身体をサイロに巻きつけ、ところ構わずベータを放出していた。
　ちくしょう、ここにはおれの大事な海チョコボが六羽もいるのに……そのうちの一羽はルビーウェポンからもらったものなんだぞ。もっとも、それ以上増やそうとしても、グリンクリンが許してくれなかったのだが、とにかく、どれもこれもレースでは連戦連勝、イカサマも朝飯前の連中ばかりだ。シルキスの野菜ばかりを与えて金もかかっているし、なにより、Ｃクラスから始めて、どれだけ退屈を紛らわせながら育てたと思っているんだ。
「チョコボを襲うなんて、なんてやつだ。蛇の風上にも置けないぞ！」クラウドは叫んだ。
　しかしミドガルズオルムは、容赦なくクラウドにベータを浴びせてくれる。
　吹っ飛んで、ころころと転がったクラウドは、親切なザックスに拾ってもらった。やっぱり持つべきは友達だよな。
「ふん、さすがにあのクラスになると、クラウドの餌付けも効果はないか」セフィロスが正宗をぶらぶらと振りまわしながら言った。
「あれだけ湿地帯に通いつめてやったのに」クラウドは悔しくなってザックスにやつあたりする。「そりゃ、最近は忙しくて放ったからしにしてたけど」
「あのよう」ザックスがヘッドロックを食らいながら呻いた。「ようするに、おまえが来ないんで拗ねたんじゃないのか？」
「だって、あいつの相手しても、全然、経験値溜まらなくなったんだもん」
「とにかく、キレた女房とチョコボには逆らわんほうがいいが、モンスターは別だ。とっとと片づけるぞ」セフィロスは無造作に進む。
「仕留めたら、かば焼きパーティやろうな」クラウドは頷いた。
「またかよ」ザックスが溜息をつく。
　セフィロスが正宗を一閃させ、サイロごと蛇の身体を牧場から吹き飛ばす。あとでグリン爺さんがあのサイロの補償を神羅に求めてくるだろうが、たぶんセフィロスはまったく考えに入れていない。
　ザックスがミドガルズオルムの尻尾をぺちぺち叩きながら湿地のほうへ追い立てはじめた。「ほれ、食われたくなかったら、帰れ、帰れ」
　しかし、ミドガルズオルムは興奮していて聞き分けがない。がぶりとザックスの頭に咬みついた。
　ハリネズミ頭をかじられながらザックスが振り返る。「おおい、なんか魔法でもくれてやってくれよ」
　セフィロスが少し考えた。「メテオでいいか」
「やめい」ザックスが素早く却下する。
「おれ、あんまりマテリア持ってこなかったよ」クラウドは装備をあちこち点検した。「あ、【てきのわざ】がある」
「早く、なんかやってくれ！」ザックスはまだ、がじがじとかじられている。
「なんかって言ったって……」クラウドはちょっとあせった。「レベル４自爆って効くんだっけ？　それともトライン……でも、それじゃ可哀相だな」
「おおい、おれが食われっちまうだろ！」ザックスが催促してくる。
「ええと、ええと」クラウドは慌てて叫んだ。「魅惑！」
「んな、【てきのわざ】があるかあ！」
　しかし特大のハートを投げキッスすれば、ミドガルズオルムはたちまちザックスを放した。
　そして今度はクラウドのほうへと素早くすり寄り、彼が抗議するまもなく、ぐるぐる巻きにしてくれる。「わあ！」
「効くからすごいな」セフィロスが感心したように呟いた。

＊＊＊

タブロイド版神羅日報

　世紀末伝説に湧きに湧いた年のことを憶えている人も多いと思う。このたび神羅の公式発表で、当時確かに近づいてきていた災厄の存在が明らかにされた。
　それはジェノバと命名され、一説には我らが英雄、セフィロスの母であるとも言われているが、真偽のほどは定かではない。それはまっすぐ星をめざし、大空洞に潜りこもうと目論んでいたらしい。
　なぜ急に進路を変え、どこぞへ逃げていったのかは誰も知らないが、ジェノバ研究の第一人者、ガスト博士はこう推測する。「たぶん、なにか恐ろしいものを目にしてしまったのではないだろうか。この星に近づきたくないと思わせるなにかを、彼女は見てしまったのだ。彼女はああ見えて、かなり繊細な心の持ち主ですからね。みなさん、見かけたら優しくリユニオンしてあげてください」
　なお、ゴールドソーサーエリアが砂漠化した時期とそれは一致した。当時、我らが神羅の英雄、セフィロスと最強チーム(パワーハウス)がその地へ赴いていたという情報もあるが、定かではない。

＊＊＊

　クラウドがぐるぐる巻きにされて途方に暮れているのを、ザックスはぼうと見あげていた。「もてるのもつらいんだよな。気持ちはわかるぜ」
「わかるほど、おまえがもてているとは思えんが」セフィロスが彼の横に並んで、ぼそりと呟く。
「なあ」クラウドが、すりすりしてくる蛇の頭を抱き返しながら叫んだ。「どうにかしてくれよ」
「けど、剥がせったってさあ」
「アルテマ」セフィロスが小声で呟いた。
　ちゅどーん、と青い核爆発の光が広がる。
　その魔法が収まると、あとには炭になったミドガルズオルムの頭部を抱きしめたまま、クラウドが横たわっていた。
「ああっ、クラウド！」ザックスは慌てて駆け寄った。がっくりとした彼を揺さぶりながら、セフィロスを肩越しに睨みつける。「いくら最強チョコボでも、あんたのアルテマ食らったらおしまいじゃないか！」
「心配ない。これまでに何度、食らわせていると思っている」
「だよな」と応えたのはクラウドだった。
　むくりと起きあがり、据わった青い眼で宿敵を睨みつける。
　ザックスはあとずさった。「待て待て待て待て待て」
　ああ、またいつものパターンだ。モンスターそっちのけで暴れるのか？　毎回毎回、自然災害のせいにして発表する神羅広報課の苦労を、少しは考えてやれよ。
「ふむ、やはりしぶとい」腕を組み、心底感心したようにセフィロス。
「【ファイナルアタック】＋【そせい】標準装備だもん。どっちもマスタークラス」クラウドは対抗するように腕組みした。
「ふっ、自動蘇生など、MPが切れたら効果はないぞ」
「だから補充させてもらうんじゃないか」
　セフィロスが目を細めた。「なんだと？」
「【ＭＰきゅうしゅう】つき【ナイツ・オブ・ラウンド】、アルティメットエンド！」
　セフィロスの周囲の空間が切り取られ、異空間に変化するのをザックスは為すすべもなく見守っていた。上下左右のないその中で立ちすくむ英雄に、一番手ガレスが斬りつけ、カイが薙ぎ裂き、ガウェインが殴りつけ、モルドレッドが突き、ランスロットが……ああ、面倒臭い、とにかく最後にはアーサー王が出てくるってわけだ。
　空間が軋み、パリンと硬質なものが割れる感覚とともに空間はもとに戻った。
「くっくっく……」と膝をつきながら、英雄は笑う。「この程度で」
「あ、ついでに【まほうみだれうち】も組んであるから」
　どーん。どごっ、ばきっ、ざくっ、どかん。
　ああ……四回も同じこと実況中継したくないぜ。ザックスは目を逸らし、クラウドを振り返った。
　彼はチョコボとともに午後のティータイムを始めている。「騎士たちを四回も召喚してると、お茶が沸かせるんだよな」
　どこどこと騒がしい空間の真上を、ぴーひょろと鷹が飛びすぎていった。
　クラウドがずずっと紅茶を飲み干したとき、ようやく騎士たちが帰っていく。
「く、クラウド……」ひとり取り残されたセフィロスは、それでも生きていた。さすがは英雄だ。
「あ、終わったか？」クラウドが立ちあがり、ティーカップを放り投げながら釘バットを取り出す。
　いつも思うんだが、セフィロスにしろクラウドにしろ、普段どこに剣担いでるんだ。背中のほうに手をやると自然に生えてくるんだから不思議だよ。おれはちゃんと背負ってるのに。
「なんちゃってソルジャーのくせに、この俺をここまでコケにするとは……今日こそ、もう手加減はせんぞ」
「あんた、しつこいよ」
「おまえもしつこく追ってきたではないか」
「そっちこそ、おれの出張先にまで追いかけてきやがって」
「イヴァリースには行っておらん！」
「あそこのことは言わないでくれ！」クラウドは悲痛な面持ちで叫んだ。「おれ、あの世界じゃプッツンしてて、危ないやつって言われて、ステータス攻撃ばかりやらされて、便利に使われて、気がつけば四十二歳とかになってるし、おれ……カエル嫌いだけど、チキンはもっといやなんだあ」
　ありゃりゃ、分裂症再発してるよ。
「よしよし」ザックスはチョコボ頭を撫でてやった。
「それに、それに……」クラウドはザックスにしがみついて、なおも訴える。「あの世界、チョコボが飛ぶんだぞ！」
「そうか、ショックだっただろうな」
「うん」ぐすぐす。「おれ、やっぱりこっちの世界がいい」
「ええい」セフィロスが苛立たしげに正宗を振った。「いつまでも、べたべたしとるな！」
　クラウドがザックスにしがみついたまま英雄を睨んだ。「なんだよ、妬いてるのか？」
「だれが妬くか！」
　ザックスはこれみよがしにクラウドの頭を頬ずりした。「素直じゃねえよな」
「やかましい！」セフィロスは正宗を突きつけてくる。「ようするにクラウド、俺を必死こいて追いかけてきた、あのおまえはどこへ行ったのだ。素直に黒マテリアを渡してくれるなど、あれほどいい子だったというのに！」
「セフィロス、おれ……」クラウドは潤んだ目で彼を見あげた。
「いいか、クラウド」セフィロスは正宗を消し、がっしりとクラウドの両肩を掴む。「おまえは俺の――」
　クラウドは目を逸らした。「言わないでくれ。言ったらおしまいだ」
「――俺のチョコボ人形でなくてはならん」
「言うなって言っただろう！」クラウドは釘バットを振りあげた。「もう止まらないからな、超究武神覇斬！」
「いきなり全力投球とは……スーパーノヴァ！」
「だから、おれを巻きこむなあ！」

＊＊＊

タブロイド版神羅日報

　昨日未明、チョコボファームがミドガルズオルムに襲われるという事件が起こった。我らが英雄、セフィロス率いる最強チーム(パワーハウス)がさっそく乗り出し、蛇退治を行なったもよう。
　なぜに湿地帯からミドガルズオルムが出てきたかは不明だが、タークスの聞きこみ調査の結果、あの蛇はチョコボに恋をしていたとのこと。どのチョコボかはわかっていないが、そのチョコボが通りかかるたびにストーカーのごとく追いかけていたところを、ムーたちがよく目にしていたらしい。
　チョコボファームのクリンちゃん（七歳）が感想を述べてくれた。「身分違いの恋って悲劇よね。ところでチョコボ仙人さん、面白いお話、まだ思い出せないの？　とっくに海チョコボ生まれてるんだけど」
　なお同日同時刻、当地には原因不明の大嵐が吹き荒れ、草原は根こそぎひっくり返されたもよう。チョコボファームを中心に新たに草を植えるため、マンドラゴラが駆り出されているとのことだ。

＊＊＊

　神羅の英雄、セフィロス率いる最強チーム(パワーハウス)が棲息するのは、寂れた田舎の村、ニブルヘイムのお化け屋敷、もとい神羅屋敷である。その地下奥深くにそれはあった。
　そこへ行く途中の通路にはインとヤンが門番のように立っている。たとえセフィロスにサインをねだりに来るファンがいたとしても、彼らによって通してもらえるまで四、五日待たされるのだ。さらにこの扉はダミーで、部屋の中には棺桶で眠る元タークスが待機している。「私を眠りから呼び醒ますのは誰だ！」と、いきなり棺桶の蓋が吹き飛べば、大概、誰もが悲鳴をあげて逃げ出すものだ。逃げ出さなかったのは天下無敵のチョコボだけだった。
　ツォンはインとヤンが遊んでとスローな身ぶりで手招きするのを無視し、こんな設備で遺伝子実験などよくぞできたというほど散らかった研究室を通りすぎる。
　その先の書斎では、本に埋もれ、セフィロスが居眠りこいていた。
　その背中を枕に、チョコボも昼寝中。
　ソルジャーの頂点に立つセフィロス、ソルジャーになれなかったくせに最強の名をほしいままにするクラウド。このふたりを放っておけばメテオを待たずとも星が崩壊すると思うからこそ、神羅は彼らを手放せないのである。きっちり手綱をつけ、退屈させない程度に適度な運動をさせておかないと。
「うぃっす」ザックスが音量を最小にしたビデオゲームから顔をあげて挨拶してきた。
　この男も毎回毎回、このふたりの戦いに巻きこまれながら、どうやって無事でいられるのだろう。それがいちばん首を傾げることかもしれない。
　ザックスは画面に向きなおり、コントローラーを上下左右に揺すりながら○ボタンを連打していた。どうやらサルを捕まえていくゲームらしい。
　ツォンは忍耐強くゲームが終わるのを待っていた。
　ザックスは舌打ちし、セーブもしないで、ぶちっと電源を切る。「で、また任務？」
「世界各地の森で、マテリアハンターと称する盗賊が出没するということだ」ツォンは書類を彼に渡した。

＊＊＊

タブロイド版神羅日報

　過日未明、ゴンガガの森でマテリアハンターと称する盗賊が、我らが神羅の英雄、セフィロス率いる最強チーム(パワーハウス)に勝負を挑み……
　………

THE END.

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