チョコボ頭の不思議なダンジョン２

　クラウドが泥溝に嵌まった。
　今度の罠はとても深く、ひとりでは抜けられなさそうなので、ザックスもひっぱってやらないわけにはいかなかった。
「ったくよう、何度めだ？」足を踏ん張り、両手でクラウドの腕をひっぱりながらザックスは天井に向かって叫んだ。
「二十六度め」
「毎度毎度、同じところに、よくぞ嵌まりこむもんだな！」
「そんなこと言ったって、ザックスが毎度毎度、せっかく歩きまわって作った地図を消しちゃうからじゃないか」
　このダンジョンに仕掛けられたトラップはいくつか種類があって、こうした泥の詰まった穴もあれば一階下へ落ちる本当の落とし穴もある。また、足を載せた途端にぐるりと方向転換してくれる回転台もあったり、スイッチひとつで苦労して書きこんだ地図をぱっと消してしまうものもあるのだ。
　落とし穴タイプは大抵、先にクラウドが嵌まりこむので、ザックスは泥まみれになることもあまりなかったが、壁に隠れていたりダミーだったりするスイッチに関しては、彼は非常に苦手だった。
　だって、なにかいいことがあるだろうと思わせる雰囲気が、そうしたスイッチにはあると思わないか？
「よっせーい！」ザックスは大きくのけぞり、チョコボを一気に引っこ抜いた。
　ずぽっと脱出するクラウド。
　チョコボ頭はそのまま弧を描いて飛び、ザックスの背後の壁に激突してめりこんだ。
　がらがらと、瓦礫とともに転がり落ちるクラウド。
　ザックスは尻餅をつき、ようやくひと息ついた。
「痛いなあ、もう」瓦礫をぽいぽい横に放り投げながらクラウドが文句を言う。
「うっせーな、手伝ってやったんだ、礼ぐらい言え」
「ふん、自分だって、このダンジョン抜け出せなくて、おれについてまわってるくせに」
「なにおう、そういうてめえこそ――」
「あ、いいもの見っけ」クラウドは瓦礫の下に頭を突っこんでいた。
「なに？」
「皮の鞍＋１！」
「チョコボ用のだろ、それ。おまえが着けるのか？」
「違う！」クラウドはザックスを殴り飛ばしてくれた。ザックスは先刻までクラウドが嵌まっていた泥の中に放りこまれる。
　彼は急いで縁にしがみついた。「おまえなあ」
「あ」と、クラウドは袋を覗きこんで困惑したような顔をした。「もう、袋がいっぱいじゃないか。おれ、いったん戻るな」
「は？」迷いこんで出られないから苦労してるんじゃないのか？
「テレポカード！」
　ひゅん、とクラウドの姿がかき消えた。
　ザックスは泥に浸かったまま、チョコボの消えた空間をじっと見つめたものだ。
「……なあ、なんでおれを置いてくわけ」

＊＊＊

「おっかえりー！」
　重い袋を引きずって帰ってみれば、ユフィは空き家をすっかり模様替えしていた。本格的になにやら商売をするつもりらしく、広いリビングをぴかぴかに磨いて、壁には棚をいっぱい取り付けている。
「さあさあ」と彼女はクラウドから袋を奪い取り、中身を床にぶちまけた。「今度はもっとましなもの拾ってきただろうね、んん？」
　ユフィはずらりと獲物を並べた。
　皮の鞍＋１、皮の爪、空き瓶、穴のあいたカード、皮の爪、甘そうな実、オイルカード、ファイアの本、小さい首輪、皮の鞍、ポーション、ドキドキな薬……。
「いっぱい取ってきただろ」クラウドは胸を張った。「でも、すぐ袋がいっぱいになるんだ」
「この馬鹿チョコボ！」
　ユフィはクラウドの顎に飛び蹴りを食らわせてきた。
　クラウドはのけぞり、そのまま後ろ向きに床に倒れる。
「いいか、こんな屑物ばっかり拾ってこないで、マテリアのひとつやふたつ、ちゃんと取ってこいよ！　チョコボが使うものばっかり喜んで拾ってきやがって……しかもなんだよ、このレベルの低さは！　アンタ、まだ五階から下に行ってないな？」
　なんでわかるんだろう？
　クラウドは床に寝そべったまま天井を見あげた。「なあユフィ、あのダンジョンにマテリアなんか存在しないよ」
「いいや」ニンジャ娘はきっぱりと首を振った。「あのダンジョンは絶対に異空間に繋がってるに決まってんだ。求めよ、さらば与えられん、だろ！」
　欲しいのはユフィなんだから、おればっかり求めて努力したって、そりゃ見つかるわけないじゃないか。
　ユフィはクラウドを踏みつけ、拳をしゅっしゅっと振りまわす。「アンタ、いまいち頼りないんだよな。ほんとに世界最強のチョコボか？」
「おれ、チョコボじゃないぞ」
「そう、アンタはチョコボじゃないかもしれないが、みんなチョコボと認めている。だからアンタはチョコボでいいんだ」
「そうか」クラウドはユフィを乗せたまま身を起こした。
　だが彼女は彼の背中に馬乗りになって、がしっと頭を掴んでくる。「じゃあ、この鳥頭でよっく聞いとけよ、あのダンジョンには少なくとも魔石ってもんがあるはずなんだ。FF世界じゃおなじみの――お？」
　今度はなんだよ。
「アンタ、なに頭に住まわせてる？」
「なにをなにしてるって？」
　ユフィは、ぴろん、とそれを摘まみあげて彼の目の前にかざしてみせた。
　それはしずく型をした小さな生きもので、突つくと、ぷよんと震えた。スライムみたいだ。「見たことないモンスターだよな」
「きっと、また別の世界のが紛れてたんだろ」ユフィがクラウドの上からどきながら、それを放り投げた。
　クラウドは思わず、それを受け止めるためにスライディングする。
　モンスターは落とさずにすんだが、ほかのものを落とした。ちゃりん、と美しい音が部屋の中に響きわたる。
　ユフィが振り返り、それを見た。「こ、これは！」
　クラウドはまたスライディングし、それを身体で隠した。「なにも見てないだろ！」
「ふざけんな！」ユフィが、げしげしと頭を蹴りつけてくる。「アンタ、アタシに黙ってギルを拾って歩いてたな！　およこし！」
「いやだあ！」クラウドは必死になって身を縮めた。「こればかりは、あんたには渡せない！　一枚一枚、拾って歩いたあの時間、あの努力を、あんたにわかるわけがないんだ！　暗闇の中で、ぴかりんこと光る丸い小さなものを見つけたときの感動！」
　しん……と、一瞬、時間が止まる。
「あ、アンタな……」ユフィは蹴りつけるのをやめ、数歩退がってしゃがみこんだ。「もしかして、一ギルずつ拾って歩いてたのか？」
「うん」クラウドは鼻をすすりながら頷いた。「そりゃ、一万ギルとか落ちてればラッキーとも思うけど、一ギルを見つけたときに比べると、あんまり感動がないんだ」
「……わかったよ……そこまで追いつめられてるとは思わなかった。ごめんよ」ユフィはなぜだか、非常に疲れたような顔をした。「これから、見つけたギルはアンタのものだ。まあどれだけ金持ちになっても、ティファとエアリスに貢ぐだけだもんな、アンタ。そのくらいは同情してやるよ」
「あれは貢ぐというより……」
「わかってる、わかってる」ユフィはぽんぽんとクラウドの頭を叩いた。その手に、またクラウドの頭に潜りこんでいたスライムが絡みついたらしい。「とにかく、こいつをダンジョンに返しておいで」
「ん」クラウドはスライムを両手で受け取る。そのモンスターは、ふるふる震えながら彼の親指に身をこすりつけてきた。

＊＊＊

　ザックスは苦労して泥から這いあがった。
　まったく、あのチョコボめ。おれを見捨てるなんて、金輪際、友達だろなんて言ってやらんからな。
　やっと床にあがれた彼は、その場で泥の滴を落としつつ溜息をついた。おれ、なんでこんなところにいるんだろう。なんでだか知らねえけど、クラウドがいるところ、常にゲスト出演させられるんだよな。追っかけ魔のセフィロスとは違うんだからよう……あいつは好きで乱入してるんだし、おれは、たまにはこう、高みの見物ってやつを経験したいよな。
　ぶつぶつと繰り返しながら俯いた彼の視界に、ふと水色のものが通りすぎた。
　ふよんふよんとしながら、それは彼の膝に乗りあがり、もういっぽうの膝へと渡り歩いて跳びおりていく。
　なんだ？
　ザックスはそれを目で追った。そのあいだに、もうひとつ同じものが、同じように彼の足を乗り越えていく。
　なんだ、なんだ？
　気がつけば、彼はふよふとした大量のモンスターにかこまれていた。なんだよ、こいつら。イエローゼリーにしちゃ黄色くねえし、やたら愛想もいい。仲間を呼び集めるにしては、ぴかぴか光るネオンとも違う。
　モンスターたちは丸い目をくりくりとさせ、きゃわきゃわとした笑顔で、ザックスのまわりをふよんぷよんと踊りまわった。

＊＊＊

　クラウドは宿屋の扉をあけ、地下への階段と光る魔方陣を見比べた。
「なあ」と頭の上にいるスライムに話しかける。「おまえがいた階って何階？」
　スライムはぷるぷると小刻みに震えた。考えこんでいるらしい。
「おれ、確か地下六階ぐらいにいたような気もするんだけどな」
　ぶるぶるとスライムが震える。違ったらしい。
「じゃあ地下五階かな？」クラウドは踏み出した。それまで行ったことのある階へとワープできる魔方陣ではなく、階段のほうへ。
「ユフィは早く下まで到達しろってうるさいけど、このダンジョンてさ、潜るたびに変わるんだよな。アイテムも復活してるから、それを拾って歩くと、どうしたって袋がいっぱいになるじゃないか。どうしろっていうんだよなあ」
　クラウドは毎回、律儀に一階から探索していたのである。
「今日は地下六階まで行けるかな？」
　アイテムを拾って歩いていては無理。しかしクラウドは、自他ともに認める鳥頭。気がつくはずがない。
　彼は階段をおりていった。
　しかし、そこは見慣れたダンジョンではなかった。イエローゼリーもいなければ、フロータイボールもヘッジホッグもいない。
　黒々とした通路が伸びている様子もなく、ただ雑貨屋のカウンターがあった。そしてそのむこうに腕組みしている店員も。
　フードつきのマントで身をすっぽりくるみ、彼の顔はほとんど見えない。わかるのは薄い笑みをたたえた口もとだけだ。
「本来は十階以上をこなさなければ、ひらいてやれない店なのだがな」彼は呟くように低く言った。「おまえがあまりにもとろいものだから、こちらから来てやった。感謝しろ」
「あんた誰？」クラウドは彼をじっと見つめた。
「ふ、そうだな……ジャニターとでも言っておこうか」
「嘘だ、あんたセフィロスだろ」
「人違いだ」
「いいや、あんたセフィロスだ」
「ふ、どこにそんな証拠がある」
　クラウドはちょっと考えた。「フードからはみ出てる銀髪、なんだ？」
「どこにでもある白髪だ」
「そうか」クラウドは頷いた。
「納得せんでほしかったものだが……まあいい。ここは店だ。余計なものを引き取って、高額なものを売りつけてやろう。どうだ？」男は両手を広げた。
「ええと」クラウドは財布の重さを確かめた。「あのさ、健康の首輪ある？」
「おまえはいつでも元気だろうが」
「なんで知ってるんだ」クラウドはまた考えた。「じゃあ、忘れない首輪」
「おまえが装備しても無駄だ」
「うっ……じゃあ、じゃあ、カウンターメイル！」
「いつもカウンターマテリアを持っているではないか！」
「ちぇっ」クラウドは口を尖らせ、きびすを返した。「使えない店だな。いいよ、もう」
「待て」魔方陣に足を踏み出しかけたクラウドを、男は呼び止めた。「どうせ袋がいっぱいになって売りたくなるだろうから、好きな階にこの店を出現させてやろう。今度は何階先で待っていればいい？」
「そうだな……」クラウドは指を折って考えた。「九千九百九十九階先」
「わかっ――なんだとっ？」
　クラウドは魔方陣から通常のダンジョンへと抜け出た。
　どこか虚空でセフィロスの叫び声が聞こえたような気がする。
　まあいいや、なんか変な寄り道しちゃったからな。まっすぐ五階をめざそう。
　クラウドはどんどん進んだ。
　ただ、どうしても足もとに落ちているギルを探さずにはいられない。アイテムはユフィに取られるし、これだけがおれの楽しみなんだ。
「やった、一ギル！」
　それを掲げて感動してみせれば、フロータイボールがふよふよと寄ってきて、それを取りあげていった。もちろんクラウドはそのモンスターを追いかけ、打ち飛ばして、モンスターが目をまわしている隙に紐で括ってしまう。
　その風船を持って、クラウドは進んだ。フロータイボールの目がぎらぎらしていて、多少の明かりにはなった。
　階段を見つけ、おりる。ランドタートルがどんと前を塞いできたので、遠慮なく踏み越えた。ナッツイーターがぼりぼりと食べているのが羨ましくなって、彼はナッツを取りあげた。食べると元気が出るって聞いたんだけど、おれ、いつも元気だからよくわからないや。
　きいきい抗議するナッツイーターを背に、彼はもう一階、また一階とおりていった。もちろん目につくアイテムは袋に放りこんでいる。相変わらず皮の鞍とかファイアの本ばかりだ。あ、テレポカード見っけ。
　地下五階に着く頃には、やはり袋はいっぱいになってしまっていた。しょうがないよな。
　相も変わらず暗い通路を進み、彼はもとのフロアに戻ってこれた。ザックスがちゃんと待っている。
　しかし彼は、水色のスライムたちに埋もれていた。ぽわぽわと笑うモンスターたちがザックスのハリネズミ頭や腕や足に絡みつき、きゃわきゃわとはしゃいでいる。
「なにしてんの」
「なにしてるように見える？」
　クラウドが考えるあいだに、彼の頭に乗っていた小さいスライムが跳びおりた。どうやらお母さんを見つけたらしく、団体の中の一匹としっかり抱きあったものだ。というか、ぷよんぷよんと身体をくっつけあっている。
「で、こいつらなに？」ザックスがあたりを見まわしながら訊いた。
「知らない。見たことないよ」クラウドは首を振った。
「んじゃ、おれらの世界のものじゃねえんだな」
「かもね」クラウドはしゃがみこみ、一匹を突ついてみた。「あんたたち、どっから来たんだ？」
　ざあっと、モンスターたちが全員動いた。ひとかたまりになって、しばらくたがいに相談したらしい時間を置いてから、今度はぱっと展開してマスゲームを始める。
　彼らは人文字、もといスライム文字で《DRAGON QUEST》と書いた。
　クラウドはザックスと顔を見あわせる。ついでにフロータイボールも寄ってきて、彼らのあいだでクエスチョンマークを浮かべていた。
「なあ、竜(ドラゴン)なんているのか、ここに？」クラウドはぼんやりと訊いた。
「わかんねえよ」ザックスはぼりぼりと頭をかいた。「いずれにしても、確かにおれらの世界のもんじゃねえな。おれらは竜なんか探さない。探索するのは常にチョコボだ」
「チョコボの探索(チョコボ・クエスト)？」クラウドは首を捻った。「そんなことやったか？」
「FFといえばチョコボだろ。ニューゲーム選んで、いつごろチョコボが出てくるか、いつもわくわくするんだ」
「チョコボ寄せマテリア持ってれば、すぐに会えるのに」
「それはおれらの話だけだ」
「それは知らなかった」
「そうだろうよ。おまえの場合は、牧場で育てさえすれば常に飛空艇に乗っけて可愛がっていられるけど、そのほかの主人公は、いちいち笛を吹いたり、特定の森に行ったりしなきゃ会えねえんだ。中には平原でしか乗りまわせないのもあったな」
「あれはワールドマップがないから」クラウドは、またばらけてじゃれついてくるスライムたちに埋もれながらザックスを振り返った。「でもさ、これは、いくらなんでも混ぜあわせすぎてないか？」
　頭に載ってぴょんぴょん飛び跳ねる生きものに、フロータイボールがさすがに不気味そうに身を揺らしている。
　ザックスがそのフロータイボールをちょいちょいと突ついて宥めながら、しかつめらしく頷いた。「じつを言うと、ドラクエはスライムの存在しか知らないんだ。そのうえ、こいつらがどういう性質のものかもよくわかっていない」
「誰の代弁をしてるのか知らないけどさ」クラウドは頭に載っていた数匹をぱたぱたと払い落とした。「ほらほら、みんな集まって。デジョンかけてやるから、もとの世界に戻れ」
「そうそう、んでもって、頑張って竜を探してくれよな」
「竜を探して、どうするんだ？」
「さあ？」
　クラウドはスライムに期待の目を向けた。「喧嘩するのか？」
　スライムたちはいっせいにぷるぷると震え、そしてやはり、いっせいにダンジョンの奥へと、ざざざっと走って（？）いってしまう。
「あ、待てよ」クラウドは追った。ザックスもついてくる。
　くねくねと続く細い通路を水色の団体が通りすぎ、ひとつの広間を横切ってまた通路へと流れこんでいく。いったい何事と、妖艶なモンスターのラミアがちらりと視線を向けてきた。
　彼らが通路を抜けるか抜けないかというとき、いままで進行方向に流れていたスライムたちがいきなり飛び跳ね、右往左往しはじめ、今度は逆にクラウドたちのほうへと押し寄せてきた。
「なんだ、なんだ？」ザックスが喚く。クラウドはスライムに足を取られ、倒れたところを埋めつくされ、髪の毛からなにから、ぷよぷよのゼリーだらけになった。
　スライムたちは怯えたように小刻みに慄えながら、ぴいぴい鳴いてクラウドに身をすり寄せてくる。
「くうらあうどおおお」
　ぬっと現われたのはセフィロスだった。長大な正宗をひっ提げ、魔晄のオーラをしょって立っている。フロータイボールさえもクラウドに羽でしがみついてくるほど、それは唐突で不気味な光景だった。
「あのさ」クラウドは彼を指し示した。「そのオーラだけでも引っこめてくんない？　スライムたち慣れてないんだから、可哀相じゃないか」
「ふむ」セフィロスはオーラを消した。「言われてみれば、FFには棲息していなさそうなモンスターだな」
「だろ？」
「そうとも、このようにシンプル、かつ素直なモンスターは、我々の世界にはいないだろう。食ってみたのか？」
　クラウドは、腹の上でびくりと慄えた一匹のスライムをうっかり凝視してしまった。
　スライムたちは、あっというまに逃げ去ったものだ。
　ザックスが背後を肩越しに振り返りながら溜息をついた。「あーあ、可哀相に」
「でもさ、あんた九千九百九十九階先で待つって言ってなかったか？」クラウドは立ちあがりながら訊いた。「なんで、こんなところにいるんだ」
「そう言われて素直に待つ者が、おまえ以外にいるものか、馬鹿者」セフィロスは正宗を振りおろしてきた。
　クラウドは白刃取りする。ちょっと失敗して刃が頭に刺さったようだが、彼は気にしなかった。「せっかく追い払ったと思ったのに」
「おまえは、そんなに俺と会うのがいやか」
「あのさ、セフィロス」クラウドは正宗を外させてから、彼の肩をぽんぽんと叩いた。ちくしょう、相変わらず背が高い。「人間てさ、毎回毎回、顔合わせてると、うんざりしてくるもんなんだよ」
「俺はうんざりなどせんぞ」
「セフィロス」クラウドは彼の肩をさらにがっしりと握った。「おれは、そこにあんたがいる限り、このダンジョンを進んでいくだろうと思う。だから、あんたはラスボスらしく」
「む？」
「あ、そうだ」クラウドはフロータイボールを繋いでいた紐をセフィロスに握らせる。「これ持ってて」
「むう……」セフィロスは怪訝にしながらも風船を受け取った。
「というわけで、あんたはラスボスらしく、いちばん奥でじっとしていてくれ！」アルテマ一発、さらにアルテマウェポンを抜き放ち、クラウドは超究武神覇斬をくれてやった。セフィロスは風船を持ったままなので、反撃できずに撃たれっぱなしだ。
　と、ザックスがデジョンを唱えた。きゅいいいんと、空間の軋む音があたりに響き渡り、黒々とした虚空の穴が出現する。
「貴様らあああ！」
　セフィロスは永遠の闇に吸いこまれていった。
「まさか、あいつにデジョンが効くとは」クラウドは閉じていくい空間を見つめて呟いた。
「おまえらふたりに任せてたんじゃ、いつまで経っても決着つかねえもん」ザックスはマテリアをポケットにしまいながら応える。「でもよ、あいつ、どこの世界に行っちまったかなあ」
「自分で飛ばしたくせに」
「いや、つい、さ」ザックスは苦笑した。「とにかく、これに凝りてくれるといいんだけど」
「あんまり期待できないだろ。どうせ根性で羽生やして戻ってくるに決まってる」
「だろうな」
「それでもきっと、竜と喧嘩してくれば多少ストレスも発散できるだろ」
「まさか、その竜の探索(ドラゴン・クエスト)世界に行ったんじゃないだろうな」
「わからないよ」クラウドは肩を竦めた。「とにかくこっちは、あいつがいると、うるさくて宝探しどころじゃないもん。あ、そういえば袋がもう、いっぱいだったんだっけ」と、拾ったはずのテレポカードを探しながら彼はきびすを返し――
　どぼん。
「やっちゃった」クラウドは泥の中で呟いた。「うっかりしてたよ」
「おまえは、うっかりしなくても嵌まるだろうがよ」
　そして彼らはまた、泥の罠から抜けるのに四苦八苦することになった。

THE END.

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