クラウドの真実

「クラウドったら、チョコボ頭のくせに」
　ティファにそう言われたとき、おれはショックだった。
　チョコボ頭……チョコボ頭……。
　いったい、どういう意味なんだ？
　おれは……おれは自分のことがわからないんだ、ティファがどうしてそんなことを言ったのか……。

チョコボ頭　→　鳥頭＝記憶薄弱　→　おばか

　………………………
　………………………ずん。
　い、いや、ティファのことだ。そんな意味で言ったんじゃない。おれはそう信じたい。
　だが、それならチョコボ頭の意味は……？

チョコボ頭　→　黄色い　→　明るい　→　軽い　→　おばか

　………………………
　………………………ずうううん。

「くっくっく」
　その含み笑いに、おれははっとした。
　あたりには炎。
　いまにも焼け崩れる家、家、家。
　あの五年前のニブルヘイムだ。
　そうか、おれはガイアの絶壁を越え、竜巻の迷宮を通過して……。
　ここはどこだ？
　その炎の中で、銀の髪を長く伸ばしっぱなしにした、腹が立つほど背の高いセフィロスがおれを見おろしていた。
「それがおまえの真実」と、セフィロスが薄笑いを浮かべる。
　おれの真実？
　おれはやっぱり馬鹿なのか？
　それともチョコボなのか？
　……いや、待て。
　だいたい、なんでおれ、セフィロスにそんなこと言われなきゃならないんだ？
「クラウド」ティファがおれの肩を揺すってきた。「相手しちゃだめよ……耳を塞ぐの、目を閉じるの！」
「どうしたんだ、ティファ？」おれは彼女を振り返った。周囲は紅蓮の炎にかこまれているというのに、彼女はひどく青い顔をしている。「おれは全然気にしていない……というか、途中から聞いていなかった」
「なんだと？」セフィロスが碧い眼を細める。「この私の、あれほどの雄弁を聞き流したというのか！」
　うん。そんなに雄弁だったのか？
「セフィロス、台詞が違うわ」ティファは厳しい口調で言った。「アドリブつけないでちょうだい。クラウドはそれについていけるほど利口じゃないのに！　台詞を覚えるのだってやっとなのよ。特にこの場面、やたらと独白が長いんだから！」
「う、うむ、そうだったな。では……」こほんと咳払いしてから、セフィロスはまた、くっくっくと笑った。「ティファよ、その言葉とは裏腹に、おまえはなにを怯えている？　ふむ……おまえの心をここに映し出してみようか？」
　ティファは目を逸らした。
　おれは彼女を見つめる。「ティファ？　セフィロスが正しいのか？」
「クラウド……」
「なにをそんなに怖れているんだ？　おれのことなら大丈夫。おれはどんなに混乱していても、セフィロスの言葉なんて信じない」
「聞いていなかったくせに」セフィロスがぼそりと突っこむ。
「確かに」おれは拳を握りながら首を振った。「おれは自分自身がわからなくなるときがある。記憶だってあやふやな部分がたくさんあるんだ」
「というより、たんに憶えていられるほどの学習能力がないのではないか？」
「でも」おれは負けじと声を張りあげた。「ティファ、ティファは言ってくれただろ？　クラウド、久しぶりねって。ティファの言葉がいつでも、おれを支えてくれる。ティファの言葉が……言葉が……」
　おれは頭を抱えてうずくまった。「ううっ、チョコボ頭って、チョコボ頭って……なんだ？」
「クラウド？」ティファがびっくりしたように目を瞠り、おれを揺すってくる。「しっかりして！」
　だがおれは、応えるどころではなかった。
「おれは、おれは……ソルジャー？　おれはいつソルジャーになったんだ？　ソルジャーって、どうやってなるんだ？」
「ああっ、クラウド、途中の台詞をほとんどすっ飛ばしちゃって！」
　おれは……。
　おれは……そんなことさえ忘れるほど鳥頭だったのか！
　おれは深く息をつき、ゆっくりと立ちあがった。「そうか……悩むことはなかったな。なぜなら、おれは……」
　おれは……。

THE END.

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