The Land of the Covenant

１

「これがチョコボの卵かあ」ラグナはそれらをしげしげと眺めやった。
　四つ並んだ大きなケージのなか、それぞれの中央にちょこんと鎮座している白い丸い球。つやつやで、ミルク色の殻は角度によってはきらきらと玉虫色に輝いて見える。
「意外に小さいのだな」キロスがぽつりと言った。
「………」可愛い、とウォードも目を輝かせている。
　ラグナはウォードの顔を見やった。「おまえはちっこい生きものが好きだからなあ」
「………」いいじゃないか。
　この卵はクラウドがチョコボからもらってきてくれたものだった。
　正直なところ、ティアーズ・ポイントの神像をガラクタにしておいて相変わらずクラウドに反省の色がないものだから、いやがらせに頼んだ仕事だった。だが、まさか本当に持ってくるとは思っていなかったラグナだ。
　いやまじめに、スコールが主張するようにあいつはチョコボの仲間に違いない。あの無愛想な息子のチョコボ偏愛ぶりにはラグナも首を傾げていたし、エルオーネに至ってはなかば本気で心配していたくらいだが、あながち思いこみというのでもないのじゃないかな。
　チョコボでないにしてもチョコボと同等の存在なのかもしれない。そう考えるしかないと思わせるところがクラウドにはあるんだ。
「でよ、あとどのくらいで生まれるんだ？」ラグナはウォードに訊ねた。
　彼は指を一本立てる。
「一週間か？」ラグナはちょっと焦った。「まだ公園の植樹もしてねえのに、急がねえと」
「慌てるな、一か月だ」キロスが溜息を洩らした。「おとといクラウドが持ってきたというのに、いくらなんでもそんなに早く殻を割るわけはないだろう」
「ああ、それもそうだよな」ラグナは頭をかいた。それから気を取りなおして意気ごんでみる。「よっしゃ、チョコボサファリパーク計画、成功させるぞ。エスタ初の国立公園だしな」
「………」アスレチックじゃなかったか？
　ウォードが突っこむように無言で訴えれば、キロスも振り返ってくる。「魔女記念館なんかを後生大事にしてるから、公園のひとつやふたつ、とっくに造っているのかと思った」
「いや、あそこよう、なにかの施設に変えるにしても不便なんだよな。だったら放っとけと思って」
「ティアーズポイントは不便じゃないのか？」
「なにを言うか」ラグナは再び拳を握って勢いこんだ。「遊ぶためなら、山越え谷越え、モンスターも越えて、人々は集まってくるもんさ」
　キロスがまた溜息をついた。「ウォード、建設省に言って道路の敷設計画出させろ。輸送省にも鉄道が敷けるかどうか相談しないとならん」
「………」それが無難だな。
「だがまずはチョコボだ！」ラグナは面倒な話は避けて通ろうと思った。「この卵の世話とか飼育要綱とか、ちゃんと聞いてるか？」
　ウォードが無言でファイルをさし出す。
　ラグナは受け取り、キロスもそれを見つめた。「誰が書いたんだ？」
「………」ウォードは頭の上で指を広げ、髪の毛を摘まみあげる。
「クラウドか」ラグナは表紙をめくった。わけのわからんこと書いてあるんじゃねえだろうな。
　一枚目の四、五行を読んで、ラグナはファイルをぱたんと閉じた。別の意味で彼の頭が拒否反応を起こしたのだ。「……なんかよう、難しい言葉が連なってるんだけど」
　キロスが取りあげ、ぱらぱらとめくって読みはじめる。「軍規みたいな書きかただな」
「………」意外だろう。
「セフィロスが書いたのならわかるが」
　そのセフィロスもザックスも、昔から事務仕事をクラウドに押しつけていたことを彼らは知らない。
「それで、誰がこれを読んで仕事してくれるんだ？」ラグナはウォードに期待の目を向けた。
　キロスが応える。「ウォードが夫婦でやると言っている。それでもふたりだけじゃ大変だから、何人か雇い入れたよな？」
「………」ウォードはこくんと頷いた。若い双子なんだ。
「ちょっと待て」ラグナは眉を寄せた。「ウォード、いつ結婚したんだ」
「何年か前だが？」キロスも眉を寄せる。
「………」友達がいのないやつだ。
「いや、だってよ、結婚式呼ばれてねえぞ、おれ」
「そうだったか？」キロスが首を傾げる。
「………」おかしいな。
「だいたい、結婚式やったのか？」ラグナはふたりを睨みつけた。
　キロスが少し記憶を探るように顎を撫でた。「そういえば、やらなかったな」
「………」うん。
　よかった。また、おれの記憶違いかと思ったじゃねえか。
「んじゃ、あらためて、おめでとう」ラグナはウォードの背中を叩いて笑った。「いつまでもオウムみたいに仲よくな」
「………」オウムだったか？
「普通はオシドリと言うな」