The Land of the Covenant

１

「もう、エレベーターの中で走ったって早く着くわけじゃないでしょ？」シュミ族の村へと降下しながら、セルフィは急かすサイファーに文句を言った。
　トラビアガーデンの様子を見に行こうと、ラグナロクで寄ったのが運の尽き。たちまちサイファーにとっ捕まって、クラウドはどこだ、だよ。どうしたのかなあ。サイファーまでチョコボフリークになっちゃったみたい。
「もしかしてさあ」アーヴァインが窺うようにサイファーを見つめた。「あせってるのは銀髪の四つ子のこと？」
「そうだよ」サイファーは苛々と足を踏み替える。
「なにかあったん？」セルフィも訊いた。
「あいつらは一枚岩じゃねえってこった」サイファーは苦々しげに応える。「リユニオンだのなんだのって騒いでるぶんにはクラウドだって平和なもんさ。俺はまた聞きの事情しか知らんが、ようは、あいつの意志次第だってことだろ」
「まあそうだよね」セルフィは頷いた。
「けど、あいつらが全員、手加減してくるというわけじゃねえ。たか括ってぬるい目で見てりゃ、あいつだって足もとすくわれる」
「だからあ」セルフィは停止の身震いをするエレベーターの中でわずかによろめいた。「なにがあったのって訊いてるの」
「四つ子のひとりが来て、クラウドを殺すって宣言しやがったんだ」
　セルフィはアーヴァインと顔を見あわせた。
　アーヴァインが首をかしげる。「クラウドって、殺せるの？」
「あたりまえだろ」サイファーはひらいた扉から外へと飛び出しながら苛立たしげに叫ぶ。「クラウドだって不死身じゃねえ。アンデッドだろうがチョコボだろうが、あいつらの言いかた真似りゃ、星に還らないものはねえってんだ」
「だって」アーヴァインはサイファーを追いながらその背中に呟きかけた。「前に海底でやりあったとき、確かに心臓……」
「確かかよ？」サイファーは肩越しに振り返る。
「ぼくの目を疑うのかい？　ぼくは狙撃手だよ」
「そうやね」セルフィは頷いた。「アービンの目は信用できる。心臓貫かれても生きてるなら、そのジェノバって言うんだっけ、その回復力が並みじゃないってことでしょ。でも、それって無制限なものじゃないよ。たぶんね」
　サイファーはうわの空でいるような頷きをしながら、まっすぐ長老の家をめざしていた。
　だが村でもひときわ広い邸宅に向かう途中、その奥の池のほとりでふたりの人影がうずくまっているのに気づいて足を止める。
　彼は眉を寄せた。「スコール！」
　SeeD指揮官ではなく、リノアのほうが顔をあげた。
　軽く手をあげながら、しかし彼女もそれ以上応えてこない。
　セルフィはサイファーと並んで彼らに近づいていった。「クラウドは？」
　リノアが口をひらきかけ、一度スコールに目をやってから、あらためて見あげてくる。「行っちゃったの」
「どこに？」と、サイファーが訊ねる。
「わからない。でも四つ子のひとりが来て宣戦布告していったんだ。それで受けて立つって」
　サイファーはしばらく考えこみ、そして池のカエルを睨みつけているスコールに蹴りつけた。「それでなにやってんだよ、てめえは」
　スコールは反応しなかった。
　サイファーが大きく音を立てて溜息をつく。「どうせ、なにかしらいじけてんだろ。すぐそうやって、うじうじしやがるんだよな、てめえはよ」
「悪かったな」
「とにかく、俺はクラウドを追うぜ」
「よせよ。どうせ足手まといだ」
　サイファーは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。「それでいじけてんのか」
「でもわかるよ」アーヴァインが首を振る。「役に立たないどころか事態を悪化させるだけなんじゃないかって思うと、ねえ？」
「うーん、そうなのかな」セルフィはひたいを指でひっかいた。「でも、ここでぐずぐずしてても意味ないしい」
「そのとおりだ」サイファーが威張るように胸を張る。「俺は行くからな」
　スコールがいやそうに顔をあげた。
　サイファーは気にせず続ける。「足手まといになりに行くんだ。少しはチョコボも気合い入るぜ」
「来るなって言われた」
「そりゃそうだろうよ」唾を吐き出すような身ぶりをしてサイファーは再びスコールの背中を蹴る。「そうやって、構ってくれないとすぐいじけるガキを連れてくわけにいかねえもんな。足手まといのほうがまだましだ」
「俺は――」
「てめえはなにも駄々を捏ねず、わがまま言わず、迷惑になりそうなことを避けてるみてえだが、俺に言わせりゃそんなもん、大人でもなんでもねえよ」サイファーはがしがしとスコールを何度も踏みつける。「大人ってのはわがまま言わねえのか？　子どもだってひらきなおりゃ、迷惑かけてもいいのか？　違うだろ」
　セルフィはぽかんと口をあけ、サイファーを見あげた。驚いた。魔女の騎士だって驀進してた問題児と同一人物とは思えない。
　そっか、みんな成長してくんやなあ。
　サイファーはなおもたたみかけていた。「相手のこと考えてやれる余裕ってもんが大人なんだよ。けどそういうもんは、てめえをしっかり把握してねえとなかなか完璧にはできるもんじゃねえ。だから、いろいろ苦労するんだろ。ずっと苦労しつづけていくんだ」
「………」
「てめえがいじけてんのが、どうしてなんだか、てめえの胸に聞いてみな。役立たずだからクラウドに嫌われたのか？」
「嫌われてなんか……」スコールはサイファーの足の下で急に口を噤んだ。
　リノアが心配そうに彼を見つめる。
　やがてスコールは頷いた。「うん、そうだな」
「おう、結論出たか？」サイファーはぐりぐりと彼の頭を足で揺さぶる。
　スコールはその足首を掴み、思いきり上へ押しあげた。同時に立ちあがり、倒れたサイファーを踏み越えてすたすたと村の出口へ向かう。
「はんちょ？」セルフィは彼の後ろ姿に声をかけた。
「クラウドに会いに行く」スコールは自分に言い聞かせるように呟いた。「立場とか迷惑になるとかそんなこと、もうどうでもいい。相手のこと考えろと言われても俺にはどうしていいかわからない。だから、会ってからいろいろ考える」
「けど」アーヴァインがぽつりと言った。「クラウドはどこに行ったんだい？」
　ぴたりとスコールが止まった。起きあがって歩き出していたサイファーも振り返る。「どこって……そりゃ、なんか問題が起こってるところだと思うが？」
「あばうとだなあ」セルフィは苦笑した。
　と、リノアがゆっくりと立ちあがり、焦点のぼやけた目でぐるりと頭上を見まわした。
「あっち」と、彼女は呟く。「星の傷、みんな集まってる」
　彼女が指し示したのは北のほうだった。