LONG AGO

「くっくっく、子どもたち、歯磨きの時間だ」セフィロスがイチゴ味の歯磨き粉を握りしめながらにやりと笑った。
「虫歯作ったらアルテマでお仕置きするからな」クラウドはミント味。ずいぶんオーソドックスだ。
　三匹の子狼たちは、いったいなにが始まるのかと、興味半分、恐怖半分でソルジャーたちを見つめた。
　ザックスはバナナ味のチューブを眺めながら首を傾げる。「しかしよ、人間の習慣つけさせて、この子たちに役に立つのか？」
「なに言ってるんだ！」クラウドはザックスを殴り飛ばした。「歯磨きしないと虫歯になるぞ。虫歯になったら削らなきゃならないんだぞ。削れば削るだけ歯が弱くなるんだ！　年取ったら入れ歯になるんだぞ。おいしいもの食べられなくなるじゃないか」
　いや、だから食べられなくなるとかいうんじゃなくて、習慣的にどうかって……まあいいか。ザックスは殴られた顎をこすりながら子どもたちの前に戻った。
「ぼくたち、歯磨きするよ！」トールが真っ先に叫ぶ。
「それがいいことなら、やってみる価値はある」ロキも頷いた。
　ウル＝リムは尻尾をくるりとまわす。「歯磨きしたら、大きくなってもチョコレート食べられる？」
「チョコレートは歯がなくとも食えるが、まあいい」セフィロスがそのウル＝リムの首根っこを捕まえた。「とっとと始めるぞ」
　トールはザックスに向かってあーんと口をあけ、ロキはクラウドに後ろから抱きかかえられたものだ。
　そして彼らは作業を始めた。

＊＊＊

　……三分経過。
「痛ええ、噛むな！」喚いたザックスの手は、口をあけていることに我慢できなくなったトールの顎に挟まれていた。
「あれ？」クラウドがロキを揺すっている。「おい、大丈夫か？　泡で窒息するまで我慢するなよ」
　セフィロスとウル＝リムはまったく動かなかった。しかし英雄の手はたっぷりとイチゴ味の歯磨き粉を載せた歯ブラシを握り、子狼の鼻先に当てている。
「……いいかげん、口をあけんか」セフィロスはやっと言った。
　ウル＝リムは涙を目に浮かべながらも頑なに口を閉じている。
「怖いなら怖いと、初めから言えばよいものを」セフィロスは諦め、持っていた歯ブラシで自分の歯を磨きはじめた。
　ウル＝リムはセフィロスの腕から解放され、泣きながらクラウドにすり寄っていく。「うええええん、クラウドおお」
「よしよし」クラウドはくるりと振り向き、ミント味の歯ブラシをその口の中に突っこんだ。そのまま、ごしごしとやりはじめる。
　それを横目で見ながらセフィロスはひたすら自分の歯を磨いていた。「イチゴ味のどこが不満なのだ、まったく」