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ヒューリー・カーウェイ少佐は大統領官邸の廊下を歩きながら軽く吐息をついた。
今日はガルバディアの独立記念日だ。神聖ドール帝国の圧制から逃れ、当時はほんの小さな国を民衆の力で打ち立てた晴れがましい日だった。デリングシティの街路は浮かれた人々でいっぱいで、さまざまな催しものが提供されていることだろう。本当なら、ジュリアとリノアを連れて休日を満喫したいところだったのだが。
ああ、リノア。まだ一歳だが可愛い俺の娘だ。ジュリアに似て、きっと美人に育つだろう。そのうち、ジュリアといっしょにピアノを弾きはじめるに違いない。いや、まだ一人前のピアノは早いだろう。玩具のオルガンでも買ってやるか。
やっと歩けるようになった赤ん坊の指が鍵盤を叩けるほど器用ではないことに、彼は気づいていなかった。
とにかく今日は、早く任務を終わらせなくては。とはいえ、大統領の演説はいつも時間延長になるので、早く帰れる見込みは少ない。
今回の彼の仕事は街の警備とその監督だった。正午からのミサと夕刻からの大統領演説、ガルバディアの高官や名士が一堂に会するのだ。テロリズムに対する備えを万全にしておかなければならなかった。特にティンバーではさまざまなゲリラグループが立ちあがっていて、活動が活発になってきているという。
魔女戦争ではエスタに対抗しているうち、ガルバディアはその領土を一気に増やすことになった。西大陸のほとんどはガルバディア領となり、神聖帝国の名を残すドールは、東北の小ぢんまりとした山地でおとなしくリゾート地となっている。
その南に位置するティンバーは豊かな国だったが、贅沢に慣れ切ってしまった軍隊の脆弱さのため、あっというまにガルバディアの侵攻を受けて呑みこまれてしまったのだ。あれほど弱い軍隊では、東から攻め入ってきたエスタを、とてもではないが阻み切れなかっただろう。
ともあれ、戦争も途中でエスタが沈黙し、国境も封鎖されてもう、半年。あの東の大国がなにを考えているのか知らないが、少なくとも今日、この日に手を出してくることはないはずだ。
したがって問題は、ティンバーのゲリラたちだけだった。
もっとも、ゲリラとはいっても大がかりな組織は皆無と言っていい。民間レベルでのデモ隊がそのままばらばらになり、それぞれ名を掲げて活動しているだけだ。軍隊の出動というほどの事態になることはなさそうだった。
ただ、ちまちまと突拍子もない作戦を打ち立てては、ガルバディアの兵舎に落書きしたり、水道水に下剤を入れたりするので、気を抜くわけにもいかない。
それらのゲリラたちが起こす抵抗運動は学生レベルのいやがらせぐらいのものだったが、もしかしたら中には大統領暗殺などという冒険に出るグループが出現しないとも限らないのだ。
カーウェイ少佐は基本的に心配性だった。