１
そこには静けさがあった。
雪も樹木も、彼を素気なく、そして無関心に迎えてくれる。
ところどころで鳥の鳴き声が聞こえるが、静寂をいっそう際立ててくれるだけで不快なものではない。なにより街の喧騒よりは遥かにましだ。
一本の樹木の幹に凭れ、足を投げ出し、スコールは目を閉じた。
この短期間のあいだに、いろいろなことがあった。
弱小ゲリラの活動支援、ただそれだけの仕事だったはずが、魔女イデアの暗殺、そして失敗。ガルバディアの報復ミサイル、その発射を阻止できず、ガーデンをでたらめに動かすことになった彼。
すべて成り行きだ。すべてが彼の意志とは関係なく展開していき、否応なく彼を巻きこんでくれる。
俺はただ、やるべきことをやってきただけだ。俺は……。
俺はなにをしたいんだろう。
ゲリラ活動支援は命令だった。ころころ変わるリノアの方針に面食らいはしたが、雇われた以上、目の前にあることだけを片づけていけばいい。それがSeeDだと思っていた。だから、リノアがなぜ怒るのか見当もつかなかったんだ。
「ただ命令に従っていればいいなんて、とても楽な人生ね」と、彼女はそう言った。
そうかもな。たぶん彼女が正しいんだろう。
また、シド学園長はいろいろなことを経験しろと言う。
けれど、命令を消化する以外のことなんて、俺はこれまで考えたこともなかった。なにをすればいいというのか、自分で見つけろと言われても困る。
魔女暗殺も命令だった。ガーデン同士のあいだでどういう確執があったのか知らないが、俺はなにも知らず、なにも考えず……だから利用された。
とにかく俺は、たいして強いわけじゃなかった。与えられた仕事をすべて完璧にこなせるほど強くないのだ。
サイファーはなにを求めて魔女のもとへ走ったのか？
俺たちは物心ついた頃からガーデンにいたな。SeeDになるため、それだけのために毎日を過ごしてきた。それなのにあいつは、あっさりとガーデンと訣別したんだ。
なぜだ？ なぜそんなことができたんだ。
……あいつ、夢だと言っていたな。魔女の騎士になることが？ 強くなることが？
俺は、あいつのように純粋に強くなろうとしているんだろうか。あいつのようになりふり構わずやらないと強くなれないんだろうか？
よくわからない。
だからいやになる。
考えたくないんだ。それなのに、なぜガーデンの指揮官になどならなければならないんだ？
正直なところ、俺には荷が重い。
確かにキスティスやシュウがサポートしてくれるし、リノアもゼルも俺を支えてくれる。ガーデンを盛り立てようというセルフィやアーヴァインの意気込みもわかる。
だが、これからどうなるんだ。
俺はなにをすればいい。
魔女はガルバディアガーデンを乗っ取り、エルオーネを捜している。
ガルバディアは大統領が殺され、混乱状態だ。
トラビアはミサイル攻撃に晒され、壊滅しただろう。バラムは魔女の手からなんとかすり抜けたものの、この混乱を収拾するだけの力は持っていない。
……いや、俺はなにを考えているんだ。
魔女を斃し、勝手気ままな侵略や制圧をやめさせようというのか？
そんな力がどこにある。
だがそれならば、俺はなにをすればいい。
俺はなにをしたいんだ？
スコールは目をあけ、わずかに身体を起こした。膝を抱えながらひたいをこする。
せっかく休息に来たのに、これではなにもならないな。いろいろなことをぐるぐると考えるのは俺の悪い癖だ。わかってはいるが、どうしてもあとからあとから愚痴が出てくる。
情けない。
なにも考えずにただ戦っているときのほうが、まだしもだ。
スコールはポケットから小さな笛を取り出した。
それは呼子のような単純なもので、森の入口で地元の子どもからもらったものだ。これを吹くとチョコボが飛んでくるというが、真偽のほどはどうだか。
彼は無意識にそれを口にくわえた。
帰ったら、セルフィの希望どおりトラビアガーデンに向かうか。姉妹校がどうなったかも気になるところだしな。
それに……時間が必要なのかもしれない。
魔女のいる場所はわかっている。バラムガーデンと同じように移動を始めたガルバディアガーデンの、居場所さえわかればあとは攻めこむだけだ。
ただ俺が迷っているだけ。
彼は溜息をついた。くわえたままの笛がかすかに震えたが、音は出ない。
なんだ、やっぱりでまかせか。
チョコボは幻の鳥だ。飛べないせいで生存競争に負け、絶滅したという噂もある。
それが、こんな厳しい気候に包まれた北の森にいるはずが――
スコールは上から落ちてきたものの下敷きになった。