１
馬鹿と言われた。
なぜだ？
仕方がないじゃないか。リノアが自分で行くと言ったんだ。彼女は自分で考えて自分で決めたんだ。彼女が望むように手を放したからといって、どうして馬鹿と言われなきゃならない。
俺だっていやだ。
なにがだ？
よくわからない。
だが、なにかがいやなんだ。
リノアが魔女になって、アルティミシアに操られるのが？ そうならなように、彼女はエスタの役人といっしょに行くと言ったんじゃないか。
だから俺はもう、なにも考えなくていいというのに。
むかむかする。
どうしてだ。
せっかく静かな森に入ってきたのに、どうしてこうも落ち着かないんだ。
落ち着いて、冷静になって……。
できないな。
どうしてだろう。
わからない。
いつもの俺なら、頭の中がぐるぐるまわってきたら考えるのをやめるのに、どうしてやめられないのだろう。
スコールは一本の樹木に手をかけた。いつものように背中をもたせかけ、坐りこんで休もうと姿勢が変わる。
が、彼は中腰のまま、ぴたりと動作を止めた。
そろそろと上を見る。
……なんでいるんだ。
チョコボは枝から手足をぶらさげ、よく眠っていた。
スコールはポケットから笛を取り出し、立ち位置をちょっとずらしてから吹いた。
「わあ！」
どた。
思いきり顔面から落ち、しばらくそのまま動かなかったチョコボはしかし、やがてのろのろと四つん這いになって首を振った。「またかよ。誰がチョコザイナなんか吹きやがる」
やっぱりこの笛の音が聞こえるんだな。確かにチョコボだ。スコールは彼に近づき、ぽんぽんとその金髪をさわってみた。すごく感触がいい。
「あんた……」チョコボは驚いたように目を見ひらいた。
吸いこまれそうなほど青い目だ。これがチョコボになったら、俺はきっと見とれて動けなくなるだろうに。まだその姿にはなってもらえないのか……残念だ。
「おれ、あんたに会いたかったんだ」少年は飛び起きるように立ちあがると突然言った。
スコールはどきりとした。会いたかった？ なぜだ？
「もう、会えないかと思ってさ」
もう、会えない？
彼は茫然と立ちつくした。
「そうだろ。この広い世界で、おれ、あんたと出会ったのは運命だと思うんだ」
スコールは自分の胸をまさぐった。ものすごく騒いでいる。心臓がどきどき言っている。
脳裏を、幼い子どもの頃の記憶がよぎった。
思い出したばかりのあの記憶だ。
お姉ちゃんに会いたいと泣きじゃくっていた俺。
ああそうか、リノアと会えなくなるのだ。
もう、会えなくなるんだ。
それが俺はいやなんだ。
「チョコボ、すまないが、今日はもう、行く」
「え？」
「悪いな」スコールはきびすを返した。
「ちょっと待てよ」少年が追いすがってくる。「それはないだろ。約束もなくて、二回もこんな辺鄙なところで会えたんだぞ」
スコールは彼を振り返った。それもそうだ。出会いは運命だといったところで、それに甘えるわけにもいかないだろう。次に会えるかどうかもわからないのだ。だがいまは細かいことを考えていられなかった。
彼はふと、チョコボの腰のベルトについている小さな人形に目をやった。「それ……くれないか」
「このモーグリ？」チョコボは身体を捻ってそれを確認した。「お守りだって言われたんだ。でもまあ、いいか。欲しいんならやるけど」
スコールはモーグリ人形のお守りをもらった。
「なあ、ほんとに時間ないのか？ おれとつきあうの、いや？」
「すまない、チョコボ」スコールはぎゅっと人形を握りしめた。「また来る。絶対に来る。だがいまは、あんたより大事なことがあるんだ」
「……そうか」少年は寂しげに頷いた。「しょうがないよな」
スコールは振り返らずに走った。
そうとも、あとのことなんかどうだっていい。俺はリノアに会いたいのだ。
だから俺は走るんだ。
＊＊＊
「おおい、クラウドメシだぞ」ザックスは、ちびにくずの生肉を与えながら叫んだ。
「放っておいてくれ、おれはふられたんだ！」ロフトからくぐもった声が泣きそうになって落ちてくる。
「どれ、慰めてくるか」セフィロスが言って立ちあがり、クラウドの部屋へとあがっていった。
「馬鹿野郎！」
どた、がた、ばたん。
セフィロスはそれほど時間もおかず、階段を突き落とされて帰ってきた。
「……ふん」床に寝そべったままセフィロスは溜息をついた。「かなり深刻らしいな」
「だったら、ちょっかい出すなよ」
| << PREV(前編) | NEXT >> |
| UTILITY MEN contents |