UTILITY MEN

１

　スコールは〈囲いの森〉にいた。
　小鳥は歌い、虫は鳴き、梢は相変わらず音楽的な囁きを繰り返している。殺伐とした戦いや、武器や兵器にかこまれて暮らす彼にとって、このひとときは安らぐための貴重な時間だった。
　だが、チョコボがいない。
　樹木をひとつひとつ調べて転寝(うたたね)しやすそうな枝を見てまわったが、あの金色の美人チョコボはどこにも留まっていなかった。
　なにかあったのだろうか。
　彼はこのあいだもらった人形をポケットから出し、モーグリのひょうきんな顔を見つめた。背中にはモグという名前の縫い取りがある。
　このモグのお守りを使えばG.F.(ガーディアン・フォース)のように現われるということはないだろうか。いや、きっとモーグリがダンスを踊るだけに違いない。俺はモーグリではなく、チョコボを呼び出したいのだ。
　音の出ない笛を吹きながらあたりを歩いていると、小さな子チョコボがぴょこぴょこと現われる。
　だが彼の片想いの相手は現われなかった。
　ここに来て、こうして子チョコボばかりを呼び出してしまったのは何度めになるだろう。そろそろ帰らなければならない時間だが、どうしてもそこを離れる気にはなれなかった。
　アルティミシアをひっぱり出すため、ルナティックパンドラに乗りこんでアデルを斃す。その作戦に、いまは迷いはない。
　リノアも覚悟を決めてついてくると言ってくれた。
　だが、彼の心残りがここにある。
　もしかしたら、あの少年は別の森に行っているのだろうか。
　どこかにあるというチョコボの聖域に行けば彼と会えるのだろうか。
　ひと目でいいから彼のチョコボ姿を見てみたかった。
　金色のふさふさの羽毛で、脚も太く、つやつやした尾をしているに違いない。
　彼に乗って海の上を駆けてみたかった。
　きっと素晴らしく気分がいいはずだ。
　スコールの中では、すでにチョコボ少年は幻の金チョコボになっていた。
　俺のチョコボだ。
　きっと俺のもとに戻ってきてくれるだろう。
　仕方がない。
　無事に帰ってきてから、また会いに来よう。
　たとえ時間の狭間に取り残されようと、俺は再びここに来るだろう。
　子チョコボが一羽、彼を見あげてぴいぴい鳴いた。
　それを見おろしながら彼はしゃがみこみ、その黄色い小さな頭を撫でる。「おまえもあのチョコボに会いたいよな」
　藪の中から大人のチョコボが現われた。どうやらこの子チョコボの母親らしいが、こちらを攻撃する意志はないらしい。
　多少くすんでいる黄色だが、艶のある羽毛のなかなかいい鳥だ。今日はこれで我慢しよう。
　スコールはチョコボにまたがり、森を出ていった。