１
エスタシティ、寂れたスラムの一角、青いチョコボドアも少し寂しげにしている。
家の中で、ザックスが湯飲みに玉露を淹れて、ほうと溜息をついた。「平和だ……」
「まったくだな」セフィロスはそのかたわらで、ダンボールにサボテンダーのクッションを苦労して詰めこんでいる。
「で、なにしてんの、あんた」
「なにとは心外だな。このあいだは本人だけを着のみ着のまま放りこんできたから、着替えだの私物だのを送ってやろうとしているのではないか」
「おお、保護者の鑑だな」ザックスはロフトから引きずりおろしてきたらしいガラクタ類を眺めた。隅で等身大ラジコンチョコボが哀しげに立っている。「あれもか？」
「いや、あれはもう、錆びついて動かんのだ」セフィロスはどうしても飛び出してくるクッションを無理やりひん曲げ、蓋をし、口でガムテープを引きながら呟いた。「ふぉのふっふょんも、はりこりふぉげがふけているし」となんとか荷造りを終え、「プリヌラは硬くなってしまったしな」
「なんで、んなもん、後生大事に持ってるんだか」
「決まっている。俺のプレゼントだからだ」
「いやがらせに買ってやったくせに」
「なにを言うか」セフィロスはラジコンチョコボを示すように手を広げてみせる。「そういう、ちょっとしたいやがらせにも含まれている俺の熱い愛がわからんのか。あれは、そういうものさえもきちんと受け取ってくれるのだ」
「まあ、あんまり深く考えないで、もらえるものはもらう主義だからな」ザックスは、ずずずと茶をすすった。「トラビアのこの緑茶ってやつ、うまいぜ？」
「ふん、葉っぱの香りばかりきついではないか。そんな粉っぽい代物は、ちびにでもやれ」セフィロスは、きゅぽんとサインペンの蓋をあけた。
「うお？」ザックスは湯呑みを勢いよく置いた。
「なんだ」ダンボールに宛名を書きながらセフィロスは義務的に訊ねてくる。
「なーんか忘れてると思ったら、ちび置いてきたまんまだぜ」
「どこに」
「ヴィンセントのところだ。おとなしくしてるといいんだがな」彼は西のほうへを首をめぐらした。もっともロフトの階段しか見えなかったが。
「エスナをかけない限り、たいして人さまには迷惑はかけんだろう。放っておけ」宛名を書き終え、満足げにセフィロスは微笑んだ。
＊＊＊
ヴィンセントはコンクリート糊で棺を組み立てなおしながら、ふと足もとをちょろちょろしている赤い獣に気づいた。
見覚えのあるミニドラゴンだが、これが誰のペットだったかは思い出したくなかった。
そんなわけで彼は、糊を乾かすためにそのドラゴンのブレスをさんざん利用したあげく外に放り出した。
ふむ、多少いびつになったが、棺に見えないこともない。
そのうち専門家を雇って新しい家を造りなおし、その費用をなんでも屋どもに請求してやろう。
とにもかくにも、まずは休息だ。
彼は棺の中に入り、蓋を閉めた。
しばらくして、ぎい、と蓋があき、のそりと彼は身を起こす。
「クラウドめ、コヨコヨの抱き枕をかっぱらっていったな」
あの時間圧縮のどさくさになにか物を持っていけるなんて芸当は、あのチョコボぐらいしかできないはずだ。
彼はしばらく思案した。
再び棺に戻り、蓋を閉める。
「まあいい、とにかく一度眠らんことには調子が出ん」
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