１
バラムガーデンはてんやわんやになっていた。
もとより転校生や編入生が溢れかえっているところへ新クラブ設立の大嵐が上陸したからだ。
これまでちょっとした運動部はあった。通信や情報関連の専門学生たちが趣味で作っていたものだ。しかしSeeD候補生たちは、そうした部活動には興味はなかった。実技の訓練をこなしていればそれなりに運動量は増えるし、それ以上に消化しなければならないカリキュラムが多すぎて、そこまで意識が向かなかったのだ。
ところが戦闘技術のカリキュラムは専門的に細かくなり、生徒ひとりひとりの単位は極端に減った。さらに言えば一般教養コースもでき、いわゆる普通の学生も増えたのだ。
あらためてシド学園長からクラブ設立の許可が下りると、自由課外活動のグループがばたばたと雨後の筍のように現われた。
この動きにいちばん喜んだのはセルフィだ。文化祭も運動会もできるよと張り切っている。
スコールは隣でルブルムドラゴンといっしょに学食をかっこんでいるチョコボに目をやった。「あんた、クラブ活動やるのか？」
「はあ？」筑前煮をスプーンですくいながらクラウドは顔をあげた。「なにそれ？」
「授業のない時間に、野球やったり、走ったり、裁縫したり、絵を描いたりするんだ」
「ふうん、面白そうだな」
「なにをやりたいんだ？」
クラウドは首を傾げた。「だから、野球やったり、走ったり、裁縫したり、絵を描いたりするんだろ」それから彼はにんじんを噛み砕きながら続けた。「おれ、落書き好きだぞ。カエルの絵は得意だ。モルボルは失敗したけどな」
「あー、クラウド、いた」セルフィが駆けてきてクラウドとスコールのあいだに割りこんで坐りこむ。「ねえねえクラウド、探偵団に入らない？」
スコールは彼女を睨みつけた。よくも邪魔してくれたなと視線で訴える。昼休みと放課後、彼といっしょに過ごせるわずかな時間だというのに。
チョコボは十六歳――たぶんでっちあげだろう――で高等部の一年に編入してきたのだ。したがって、十七歳のスコールとは学年がひとつ違った。実技は剣術と組み手ぐらいしかいっしょになれないし、それもSeeDたるスコールにはあまり受ける意味がないので、そうした授業で会える確率は格段に減ってしまうのだ。
それでもスコールは抜け目なくチョコボの選択講義を調べあげ、できる限り無理やり合わせ、化学と家庭科の料理実習コースを自分のカリキュラムに追加していた。
「探偵団？」と、クラウドは彼女に目をやる。
「あたしい、探偵クラブ作るの」
「それ、なにするんだ」
「ほらほら、クラウド、なんでも屋やってたでしょ。それとおんなじこと」
「子守りしたり、屋根の修理したり、デートの相手になったり、ネズミの調教したりするのか？」
「ちょっと違うー」セルフィは眉を寄せて考えこんだ。
スコールはテーブルをまわって反対側の隣に坐ろうとしたが、ルブルムドラゴンが陣取っていたのでそれを持ちあげた。
そこにゼルが滑りこんでくる。「なあなあ、Ｔボード愛好会に入らねえか、クラウド？」
スコールはドラゴンの首を絞めあげてやつあたりをした。
「ああ、あのタービンで走るやつな。おれ、バイクのほうが好きなんだけど」
「免許取れないだろ、まだ」ゼルは首を捻った。「あ、いや、エスタじゃ持ってたのか？ どっちにしても、学校にいるあいだは車輌免許、許可されたときにしか使えないからさ」
「許可してもらえればバイクに乗れるのか？」クラウドは立ちあがった。「頼んでくる」
「へ、どこに？」
「イデアんところ」
クラウドはとっとと食堂を出ていってしまう。そのあとをスコールの腕からミニドラゴンがにじりもがき出て追っていった。たぶんまたあのドラゴンは迷子になるだろう。この食堂の隅で段ボール箱をかじっているのを見つけたとき、スコールは迷ったのかと訊ね、ドラゴンはそうだと言わんばかりに頷いたものだ。
セルフィが頷いた。「クラウドって、まま先生とお友達だったんだっけ」
「でも、まま先生、すっげ厳しいぜ？」呟くと、ゼルはスコールに向きなおった。「そうそう、スコールのこともいろいろなクラブが勧誘しようと画策してるよな。でなきゃ、あんたがどんなクラブ作るかって話でもちきりだし、ちくしょう、クラウドとふたりで人気を独占しやがってよう」
「あんたたちは？」スコールは彼らを睨みつけた。
「あ？」
「クラウドを誘っておいて、俺は無視か」
「だって、クラウドの入るとこに来るだろ？」
「………」なぜわかるんだ。
「あたしたちい、そのこと知ってるからねー。その点は有利だよ。クラウドさえ射落とせば、ふたりは部員確保できるもん」セルフィは頬に手を当てて考えこんだ。「でもクラウドって、趣味なんだろ」
「決まっている」スコールが呟くと、ふたりともぱっと顔をあげた。「あれはチョコボだ。チョコボといえば走ることだろう」
「そう？」セルフィは首を傾げた。
「地面を掘るとか」
「どうかなあ？」
「食いものには興味を示すぞ」
「あ、そうか」ゼルが頷いた。「ってことは料理研究会か？」
「えー、それってヴィンさんの得意技」
「そうだな、クラウドは食べるほうが専門だ」スコールも同意する。
「じゃあなんだろ。茶道クラブはお菓子食べられるけど」セルフィは頭を左右に傾けつつクラブ名を数えあげていった。
そういえばクラウドの頭の中というのは謎だらけだ。会話が噛みあわなくても結構話が進んだりするのは便利だが。
そうだな、機会があったらそれとなく好きなものでも訊いておこう。
「クラウド、食器片づけてかなかったぜ」ゼルが感心したようにトレーを眺めた。「きれいに食ってあるけどな」
「……俺が片づける」スコールは自分のものと彼のを重ねた。