UTILITY MEN

　スコールは落ちこんでいた。
　せっかくの休日、いろいろプランを練り、車輌使用許可証も手に入れ、クラウドと炎の洞窟でボムレースでもやるつもりだったのだ。
　ところが、ふられてしまった。
　モンスターと遊ぶ、あるいはモンスターで遊ぶのはあのチョコボの喜ぶことだと思っていたのに。いつだったか、ラルドでクロッキーでもと言っていたじゃないか。
　SeeDの仕事もなく課業もなく、いつものようにからりと晴れたバラムの休日。いまさらひとりで過ごすことになろうとは。
　彼の予定を聞かなかった俺も悪かったが、まさかクラウドに用事があるとは誰も思わないことだ。クラウドはいつでもクラウドで、計画など立てず、好きなことを好きなだけやって楽しんでいる。
　スコールは花壇の縁に坐り、かすかな風になびくススキに向かってひたすら問いかけていた。
　そこへセルフィが声をかけてくる。「はんちょ、幻の耳と尻尾が垂れ下がってるよ。なにかあった？」
　なぜセルフィにまで俺の機嫌がわかるんだ。「クラウドを誘ったら断わられたんだ」
「へえ、珍しい」彼女は目を丸くする。「クラウド、いつでもいっしょに遊んでくれるのにね。はんちょの誘いより大事なことがあったんだ？」
「俺より大事なこと……」スコールは呟き、言いなおした。「モンスターで遊ぶより大事なことなのか……」
「なんて言って断わられたの？」セルフィは膝に両手を当て、身を屈めてこちらを覗きこむようにする。
「ティファと過ごすんだそうだ」
「誰、それ？」
　スコールは彼女を振り仰いだ。「知らないだろう？　俺も知らなかった。女の子の名前だと思うんだが」
「ええっ？」セルフィはさっと起きあがり、口を手に当てて大仰に驚いた。「あのクラウドに、ガールフレンド!?」
　スコールは呆れて彼女を見つめる。「クラウドだって彼女のひとりやふたり」
　セルフィはすぐに、もとのとぼけた表情に戻った。「ま、そうやね。はんちょにだってリノアがいるし」それから彼女は校舎のほうを振り返った。「そうだよ、だったらリノアを誘えばいいのに」
「リノアはリノアで、別に計画を立てていたんだ。俺はそれを断わってしまった」
「ありゃりゃ」
「彼女はバラムの映画館に行きたかったらしい。ロングランの古い映画をやっているんだそうだ」
「行ってあげればいいのに」
「あの映画には……」スコールは首を振った。「ちらっとだが、見たような顔が出てるんだ。ルブルムドラゴンに遊ばれているそいつの姿は見たくなくて……それに、俺は途中で寝そうだ。寝るとリノアに怒られる」
「ジレンマだね」セルフィは重々しく頷いた。「そういうことなら協力してあげよう」
「は？」
「リノアの機嫌取りとクラウドの追跡調査と、どっちにギャラ出す？」彼女は指で丸を作って目に当てた。
　スコールはしばらく考えた。そういえばセルフィは探偵クラブだったな。裏稼業で、学校内の生徒相手に浮気調査だのデートコースの下調べだのして、何組ものカップルを破滅に追いこんでいる。
　スコールはおもむろに立ちあがり、きっぱりと言った。「クラウドの追跡調査だ」
「安いほうを選んだね」ちっ、とばかりに舌打ちし、セルフィはさっそくきびすを返す。「というわけで、ザックスさんのところに行こう」
　もう少し苦労して調べるとかしないのか？
　しかし確かにザックスは便利だった。のんびりしているように見えて、そこはかとなく問題児ふたりにしっかりと目を光らせている。
　スコールはセルフィといっしょに校舎内に戻った。

＊＊＊

　ザックスは、いまではガーデンの人気用務員、兼警備員だ。愛想もいいし、親切だし、当然のことだが腕っぷしもある。なぜ用務員に腕っぷしが必要なのかといえば、そこはやはりSeeD校。戦闘訓練受けているティーンエイジャーの相手をするわけだし。というか、積極的に生活指導する用務員も普通はあまりいないのだが。
　用務室、兼警備室には大抵、キスティスが入りびたっている。一時期ザックスに惚れたのではという噂が立ったりしたものだが、どうやら彼女は、彼の淹れるお茶の腕前に惚れただけというのが一部の者の見解だ。でなければ、ルブルムドラゴンのもとの飼い主だから、なんのかのとつきあっているだけだとも。
　とにかく、今日も彼女は、カードリーダー横の小さな部屋でジャスミンティーをご馳走になっていた。
「ザックスさーん」とセルフィが飛びこめば、彼はにこやかに迎えてくる。
「おう来たな。今日はライチがあるぞ。クラウドに食われねえように隠すの苦労したんだからな」と冷蔵庫から赤黒い丸い果物を盛った皿を取り出した。「茶はなにがいいんだ？　コーヒーでもいいが、ちょい時間かかるぜ」
「あたしい、アッサムのめちゃくちゃ濃いのがいい」
「果物には合わないんじゃない？」キスティスが、ちびドラゴンに皮つきのままライチを食べさせている。ちびは平気でばりばりと噛み砕いていた。さすがに小さくてもルブルムドラゴンだ。
「お茶はいい。情報が欲しい」スコールは呟いた。
「あ、そうそう」セルフィがやっとここへ来た目的を思い出してくれたらしい。「クラウド知らない？」
「ここに来てたらライチが残ってるはずはないでしょ」キスティスがすかさず応える。
　ザックスはお茶を入れながら片手でコンソールを操作した。「カードリーダーは通ってねえな。まだ校内にいるぜ」
「じゃあ」と、セルフィが怪しげに目を輝かせた。「クラウドの彼女って生徒なんだ？」
　ザックスとキスティスが同時にセルフィを振り返る。「彼女？」
「やっぱり驚くよねえ」セルフィはうんうんと頷いた。「ところが、スコールはんちょが実際にふられてるんだ、その彼女のために」
　ザックスはポットを軽く揺すって葉を蒸らしながら軽く溜息をつく。「スコール、おまえ、また召喚獣探しにいこうとか、モンスターで遊ぼうとか言って連れ出そうとしたんだろう」
「そのとおりだ」
「いくらクラウドだって、毎回休暇のたびに誘われてりゃ飽きるって」
「今度はボムレースをやるつもりだったんだ」
「だからよう……」ザックスはまた溜息を落とし、セルフィに目を向けた。「で、クラウドの彼女って？」
「ティファって名前らしいんだけど、知ってる？」
　がちゃん。
　ポットが床に落ち、見事に割れた。
　スコールもセルフィも、キスティスも、そしてルブルムドラゴンも、無残に砕け、湯気を立てている陶器のかけらを見つめてから、やがて同時にザックスに視線を移す。
　黒髪の大柄な警備員は珍しく茫然としているように見えた。
「どうかしたか？」スコールは訊ねた。
「ティファ？」と、彼はかすれた声で呟く。
「そのティファとデートをすると言っていた」
「ティファだなんて、そんな馬鹿な」
「誰、誰？」
　しかしザックスはなにも応えず、用務員室を飛び出した。
　スコールとセルフィは彼を追った。

＊＊＊

　ザックスが駆けこんだのは、食堂、その隣にある厨房だった。
　スコールとセルフィは彼を追うようにそこへ駆けこみ、マントの上からコヨコヨのエプロンをつけて、まな板と格闘している幽霊に近づいていく。
　午後の課外活動の準備をしていた料理クラブ顧問のヴィンセントは、秋刀魚をおろしているところだった。
「これがなかなか難しいのだ」呟きながら器用な手つきで鰓の裏に刃を入れ、ごりっと頭を落としている。
　確か秋刀魚って、焼くだけなら三枚おろしにはしないんじゃなかったか？
「んなことやってる場合じゃねえよ」ザックスは幽霊から無理やり包丁を取りあげた。「クラウドから、なんか聞いてるか？」
「なにをだ？」料理研究の邪魔をされ、ヴィンセントは少し不機嫌そうに紅い目を向けてくる。「ザックスの鼾がうるさいとか、セフィロスが暑苦しいとか？」
「そうじゃねえ」ザックスは拳を握って勢いこんでから、急に声を落とした。「ライフストリームから、またなにか拾ってきたとか」
　ヴィンセントは片目を窄めながら包丁を取り返す。そして再び秋刀魚に刃を当てながら面倒げに言った。「はっきり言わんか」
　スコールが代わりに言った。「クラウドがティファに会っている。彼女について、なにか知っているか？」
　ざくり。
　ヴィンセントは左手首に刃を入れていた。
「ヴィンさん、血が出てるよう」セルフィが顔をしかめる。
「うむ、私としたことが、少し動揺したらしい」
　動揺するような存在なのか。しかしそれにしても、少しという動揺の仕方じゃないぞ、それ。「ヴィンセントも知っているのか？」
「知っているかだと？」彼は包丁を放り出し、傷がくっつくまで手首を握りしめていた。「彼女は……恐ろしい女性だった」
　スコールもセルフィも、ぼけっと彼を見返す。
　このヴィンセントがそれほど恐れる相手なのか？
「とにかく、遠い目をしてねえで答えろよ」ザックスが苛々と詰め寄る。「あいつ、またでたらめに誰かを復活させたんじゃねえだろうな？」
「よりにもよってティファをか？」
　そうか、ザックスもセフィロスも一度死んで、クラウドが復活させたとか言っていたな。いや、クラウドがやったんじゃなくて星だったか？　まあともかく、そういうこともあるということだ。すると、ティファというのは過去の人物で……。「その彼女はいったい、何者なんだ？」
　ヴィンセントもザックスも、くるりと青い顔を向けてくる。
　ザックスが軽く首を振った。「おれは可愛らしいティーンエイジャーの頃しか知らねえ。けど生きてるはずはねえんだよ」
「いや、クラウドに関して世の中の常識は通用せん」ヴィンセントは厳かに宣言する。「しかしティファとは……」
「だから何者なんだ？」スコールは腕を組み、苛々と爪先を床に叩きつけた。
「女房」ザックスが応える。「あいつ、しょっちゅう言ってるだろ、おれの女房が、うちのかみさんがって」
「ああ、そういえば」
「そうだったんだ」セルフィが、はあ、と溜息をつく。「それじゃ、はんちょ、ふられるの、しょうがないよ」
「本当に復活しているのか？」ヴィンセントが彼らを見まわした。
「わからないから訊きにきたんだよ」ザックスは彼の襟首を掴んで揺すった。「あんたの仲間でもあるだろ、彼女は」
「いや、違う」ヴィンセントはきっぱりと言った。「私は……はっきり言って彼女の奴隷だった」
「は？」
「一度でも躾けられると、あの黄金の両腕に敵うものではないのだ」
「躾って……ヴィンさん、やっぱりモンスター？」セルフィが唇に指を当てながら疑わしそうに彼を見つめた。
「違うというに。躾とは言ってもクラウドといっしょにするな」ヴィンセントはむっとしたように応える。「彼女のあの両腕には、どんなに強力な毒性のあるモンスターであろうと輝かしいフレンチにしてしまうほどの、不思議な魔法の指がついていたのだ」
「ようするに料理がうまかったんだな」スコールは頷いた。それならクラウドが惚れこむのもわかる。
「うまいなどというものではない。あの素晴らしい作品をわずかでも口に入れたなら、誰も彼女には逆らえなくなる」
「そんなにすごい人だったんだ」セルフィが目を丸くする。「さすがにクラウドのお嫁さん？」
「そうとも」ヴィンセントは、今度は不機嫌そうに拳を震わせる。「あれほど素晴らしい包丁人はいないというのに、なぜよりにもよってクラウドなのだ？　うまい、まずいぐらいしか判断のつかない、ただ単に食っていれば幸せ、食えるものならなんでも食うという味覚音痴に、なぜ彼女と彼女の料理を独占されなければならなかったのだ！」
　スコールは横手の床を見つめて思案した。「困ったな。そんな手強いライバルが出現するとは……」
「いや、ティファと張りあうなよ」ザックスが呆れたように横目を向けてくる。「とにかく事の真偽を確かめようぜ。おれはティファのことはそう恐れてねえけど、もし本当に復活してたら、ちっと、まじめにクラウドに説教しねえと」
「うむ」ヴィンセントは重々しく頷いた。

＊＊＊

　クラウドを捜して訊ねていれば、大抵セフィロスに行き着く。所在を訊ねた相手は五割がた、体育教師といっしょにいるんじゃないかと答えてくれるからだ。
　セフィロスは棒高跳びの実験をしていた。今度、生徒に教えてみるのだという。
　彼はやたらと長いグラスファイバー製の棒を砂場に突き刺したところでティファの名前を聞き、そのままぼっきりと折ってしまった。
　そして動かなくなった。
　スコールたちはじっと待つこと二十分。
「………………………ティファ、だと？」ようやくセフィロスの口から声が洩れる。
　そして再び待つこと十分。
「………………………あの女が復活しているのか？」
　さらに待って五分。
「………………………終わりだ」
　そしてセフィロスは折れた棒を握りしめ、空に向かって吼える。「あの女の腕にかかっては、この平穏な生活もついに終焉を迎えざるを得ないぞ！　なぜそんなものを復活させるのだ、クラウド！」
「あのさあ」セルフィが首を傾げながら訊ねる。「料理上手っていうだけで、どうしてそんなふうになるの？」
「誰があんな女の作ったものなど食うものか！」セフィロスはくるりと振り返った。「食いもので釣られるのはクラウドだけで充分だ。だがあの女はな、素手でジェノバを斃すのだぞ」
「それはすごい」スコールは本気で感心した。ところで、ジェノバってどんな生きものだったんだろう。
「俺の正宗を持ちあげ、片腕一本でドラゴンを振りまわし、スノーボードで崖に激突しようと、ほんのちょっとよろめくだけだ。まあそれはクラウドも同じだが……さらに」彼はゆっくりとみなを見まわした。「あのクラウドを尻に敷いていたと聞く」
　スコールは雰囲気に呑まれて首筋にぞくりとするものをおぼえた。「怖いな……」
「そうだろう」セフィロスは頷き、手に持っていたグラスファイバーの棒をさらにばっきりと折った。「あの女の魔の手にからめ取られる前に、クラウドを連れて逃げねば」
「彼女、ライフストリームまで追いかけてこれるんだろ？」ザックスがぽつりと呟くように言った。「どこ隠れても無理だと思うけどな。それよか、仲よくしたらどうだよ？」
「ごめんこうむる」セフィロスはきっぱりと言った。「女は嫌いだ」
「マザコンのくせに」そう返したザックスは、グラスファイバーの棒で挟まれて砂場に捨てられた。
「とにかく」スコールは取っ組みあいを始めた彼らを無視し、ヴィンセントに目を向けた。「俺はむしろ、あんたたちがそれほど恐れる女性に会ってみたい。俺の誘いを断わってもデートするなんて、よほどクラウドは惚れこんでいるんだろう？」
「というよりも、あれは……」ヴィンセントは眉を寄せ、少し考えこむようにマントの中で腕を組んだ。「いや、実際に見ればわかるだろう」
「じゃあ今度こそ、クラウド本人を捜し当てよう！」セルフィが張り切って腕を頭上に突きあげた。

＊＊＊

「クラウドなら厩舎にいたぜ」情報通のゼルに訊ねれば、あっさりとそう応えてきた。「今日は一日、そこで過ごすとか言ってたし」
「厩舎？」スコールは首を傾げた。
「そうか、迂闊だったな」セフィロスがおもむろに頷く。「クラウドといえばチョコボだ。休日に仲間と過ごすのはあたりまえだ」
「いや、仲間じゃねえって」ザックスが小さく訂正する。
「チョコボ？」スコールはますます眉を寄せた。「チョコボが、なんでバラムガーデンにいるんだ」
「はんちょ、任務で出てたから知らなかったっけ」セルフィがぽんぽんと彼の肩を叩いてくる。「クラウド、卵持ってきて育ててたんだよ」
「ガーデンで？」
　チョコボの人工飼育は、せいぜいエスタと、ようやくガルバディアで二羽が孵化というところまで漕ぎつけている程度だ。
「うん。騒がれると困るから、結構こっそりね」
　ザックスがぼりぼりと頭をかいた。「そういや、ここんところ忙しくしてたな」
　スコールにはなんとなく今後の予想がついた。きっとティファというのはチョコボの名前だ。絶対にそうだ。それなら俺がふられたわけもわかる。
　果たしてチョコボはそこにいたものだ。三羽。違う、二羽とひとり。
　ミメットの野菜を割って小さな二羽にそれぞれ与えながら、クラウドが振り返った。「あれ、どうした？」
「どうしたじゃねえよ。スコールがデートしてもらえねえって拗ねててよう」ザックスが近づいていき、無造作にチョコボの頭を撫でようとした。「しかし、このくらいちっこいと可愛い――」
　途端に彼は突つき倒された。悲鳴をあげて逃げまわる彼を、なおもそのチョコボは突つこうと、小さな柵からめいっぱい首を伸ばし、乗り越えようと脚までかけている。
　クラウドが叫んだ。「ティファ、だめ！」
　ああ、やっぱり。
「どうしてこう気が荒いんだろ」耳の裏を撫でながらクラウドが不満げに呟く。
「名前がいかんな」セフィロスがむっつりと呟いた。「なぜそんな女の名をつけるのだ。おかげで大騒ぎだ」
「なんで？」ぐりぐりと頬ずりされながらクラウドはセフィロスを振り仰いだ。「おれ、ティファみたいにおしとやかな女の子になってほしくて、そうつけたのに」
　誰もが耳を疑ったようだった。
「いま、なんと言った？」セフィロスがかすれた声でようやく訊ねる。
「名前をつけた」
「いや、ティファがなんだと？」
　クラウドは要領を得ずに首を傾げる。「ティファがなに？」
「いま、あの女がおしとやかだと言わなかったか？」
「言ったよ」クラウドは大きく頷いた。
　ええと。スコールはいままで聞いた情報を整理してみた。「怪力で、毒入り料理を作る？」
　クラウドはまばたいた。「ティファが？」
「そう聞いたが」
「誰がそんなでたらめ。おれ、怒るよ？」
「事実だろうが！」セフィロスが叫んだ。
「確かに腕力はあったかもしれないけどさ、可愛いものだったじゃないか」
「俺の正宗を持ちあげるほどなのにか？」
「あんただって振りまわしてるだろ」
「ドラゴンを片手であしらう？」セルフィが重ねて訊ねる。
「ザックスなら踏みつぶしてるじゃないか」
「どんなモンスターでも料理してしまうとか」スコールも訊ねてみた。
「うん、すごくうまかった」
「あのさ」セルフィがちょっと心配そうな顔でクラウドに迫った。「クラウド、悪いこと言わないから、その女らしいと判断する基準を、ちょーっと見直してもらえないかな」
「なんで？」
「例えば、リノアはおとなしい子？」
「うん、とっても」
「あたしは？」
「玩具みたいだよな」
「……キスティスは？」
「ガラス人形みたいにきれいだよ？」クラウドは苦笑した。「みんな、ひ弱だからさ。おれ、結構気を使ってるつもりだけど」
　セルフィはクラウドの肩に両手を置き、がっくりと項垂れる。「あたしたち、SeeDなんだよ……」

＊＊＊

　ティファは攻撃的だった。
　いくらクラウドが言い聞かせても、彼女は目の前にいる人物、特にクラウドと並んで立っている人物がいれば、すぐさま跳び蹴りを食らわせ、追いかけまわして日々を過ごしている。
　もちろん最大の被害をこうむっているのはセフィロスだった。
　彼の場合、クラウドがいっしょにいようといまいと、お構いなしに攻撃されている。さらに一度か二度、彼女は厩舎から脱走し、寝室にまで夜襲をかけたこともあるらしい。
　いつまでも、名前がいかん、変えろとしつこく言って、闘争心丸出しのセフィロスも悪いのだろう。だが厩舎に通って、なにやらティファに暗示をかけているらしいザックスの姿を、何人かが目撃しているということだ。
　また、コケコッコーを教えている幽霊もいるとかいないとか。真偽のほどはわからない。
　ただ最近、俺に向けられるティファの視線が、心なしか険を帯びたものになってきたように思う。
　いずれにしても、クラウドの信じるおしとやかなティファには、到底なれそうもないメスチョコボだ。
　あの丈夫そうな脚の爪、毎日クラウドが磨いてやっている、つやつやした嘴……。
　ああ、だめだ。チョコボごときに怖気づいていては、クラウドとつきあってはいけない。
　それに、せっかく子ども扱いから友人にまで持ちあげてもらったのだから、いまさらチョコボやモンスターに負けるわけにはいかないだろう。
　スコールは再び、もっと強くなろうと決意した。

Ｓ：　Little did I dream she would come back.
Ｚ：　You called her Tifa after your wife.
Ｃ：　She was a good wife.

THE END.

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