RUN AWAY FROM THE FEAR
「イリーナをツォンの見舞いにやっておいて正解だったかな、と」レノは呟いた。
「………」どうかなとルードが首を捻る。「こういう状況はイリーナのほうが強いかも」
「そうだな。あいつは平気でホラー映画を観るタイプだ」
そこは輸送機(ゲルニカ)の貨物室だった。エンジン音はすっかりなくなり、ひんやりとした湿った空気が機内を満たしている。そしてあたりは魑魅魍魎で埋めつくされていた。地獄の生きものが湧き出てきたというほうが、まだましだったかもしれない。
クラゲみたいなモンスターが上下に伸び縮みしながら浮遊し、そこらじゅうに、でっかいひれのついた蛇がうようよと走りまわっている。それらがあたりに氷片をばらまいている中で、棘のついた花弁を頭に飾った、どう見ても食肉植物が変化したような物騒なモンスターが群れを成して獲物を探していた。肉塊に見える化物は顔だけ骸骨で、剥き出した歯列が異様に黄色く、しかもぶっとい。
「……これだから廃棄サンプルの運搬なんて、おれはいやだったんだぞ、と」レノはぼそぼそと愚痴った。あまり大きく悪態をつけば、あの悪魔どもに気づかれてしまうからだ。「宝条に可愛がられてた連中が、ゴミ捨て場までおとなしくしてくれるはずがねえもんな、と」
横倒しになったゲージの陰に、ふたりは身を縮めていた。虹色に彩られた甲殻類が彼らの足もとに近づいてくる。
その小型の比較的おとなしそうなモンスターを足と腕を振って追い払い、レノはその場にしゃがみこんだ。
「どうする」ルードが彼を見おろしてくる。
「逃げるに限るぞ、と」
「どこから？」
それが問題だった。とりあえず、この貨物室からは運がよければ逃げられるだろう。だがそのあと、深海の黒い水はものすごい水圧で彼らの脱出を阻むに違いない。
ようするに、この輸送機(ゲルニカ)は海に墜落したのだった。
激しく気流に揉まれ、整備不良のためエンジンが瞬くまにお釈迦になり、まっすぐと海に突っこんだことまでは彼らも知るところだ。
それからどのくらい上下左右に揺さぶられたのか、この貨物室の散らかり具合からも想像がつく。積みあげられていた荷物は例外なくなだれ、互いに角をぶつけあって相打ちになっているし、頑丈なはずのケージはひしゃげ、鍵は吹っ飛んでいた。なにしろその衝撃と揺れが、ここで安全点検をしていたレノやルードの意識を失わせたのだ。
そして彼らがそろって床に伸びているあいだに、ケージの中でうつらうつらしていた連中があっというまにこの小さな天国を作ってしまっていた。
海に突っこんでいながら大破しなかったのは運がよかった。この深海で水圧に押しつぶされずにいるのも、いまのところ幸運だ。レノとルードが気絶しているあいだに、連中が彼らをおいしくいただこうなどという考えを持たずにいれくれたのも非常に嬉しい。
しかし、なんらかの救助が来るまで、ゼリーやら動く食肉植物やらといっしょに雑魚寝する図というのは考えたくもなかった。
多少死ぬほど苦しい目に遭っても、この身ひとつで海に飛び出したほうがまだましだ。
「神羅が潜水艦をまわしてくれるまで待つか？」ルードが首を竦め、頭上を漂っていったクラゲをよけながら訊ねてくる。
「いや」レノはきっぱりと首を振った。「神羅にはもう、潜水艦はねえんだぞ、と」
怪訝そうにサングラスの目を向けてくるルード。レノは軽く片手を振った。「クラウドがちゃっかり持ってっちまったんだぞ、と」
「返しに来ていないのか」
「あの連中は無断借用のつもりかもしれねえが、あれは立派な窃盗だ！」レノは叫んだ。「お尋ね者になるのも当然だろうが」
途端に食肉植物の群れがこちらを振り返ってくる。花弁の中心にあるグロテスクな顔が一様に嬉しそうに笑っていた。
レノは飛びあがり、ルードの背後に隠れた。同僚は無言の非難を浴びせてくるが、いっせいにダッシュしてくる肉色の花々に、こめかみのあたりに青筋を走らせる。
彼らは斜めになったケージの上へと跳びあがった。ふたりで障害物レースを競うようにガラクタの上を走り抜ける。クラゲが触手を伸ばして刺そうとしてくるのを、レノは鞭(ロッド)で撥ね返し、絡みついてくる甲殻類をルードが蹴り飛ばす。
鉄階段の狭い場所で骸骨が待ち受けていた。
しゃがれた吼え声で飛びかかってくるのを、彼らは左右に分かれて避けた。
モンスターは勢いよく通りすぎ、その尖った歯を彼らを追ってきた食肉植物の肉厚な花弁に突き立てた。
背後でたちまち同士食いが起こる。レノは漂ってくる異様な臭いに吐き気をこらえながら階段を駆けあがった。
高架通路(キャットウォーク)を駆け抜け、もう少しでこの貨物室の出口に辿りつくというのに、空中からクラゲどもが彼らに向かって群れてくる。
鞭(ロッド)に電気を走らせ、彼は思いきり周囲に雷を振りまいた。一匹、二匹と下へ落ちていくものの、まだ数匹がふわふわと、そのゼリーみたいに透明な身体を寄せてくる。
ルードがそのひとつに拳を突きこんだ。しかし、それは逆に彼の腕を呑みこむようにぐにゃりと変形したものだ。
軽い舌打ちとともに腕を引っこめたルードだが、洩れなくモンスターもついてくる。レノはそれに武器を当てて電撃を走らせ、びくりとゼリーが震えた隙に、ルードがさっと跳び離れた。
鉄扉をあけ、コックピットのほうへ続く通路へ転がり出るふたり。しかし、レノの足に甲殻類のぬめった触手が絡みついてきた。
「ちくしょう」武器を繰り返し当てて電気を流しこんでもみるが、それは相変わらずがっしりと食らいついて離れない。
ルードが勢いよく扉を閉めた。モンスターの殻の部分がそれに挟まれ、びきりと割れて粉々になる。どういう具合か、軟体のほうも、くたりと動かなくなった。
レノは足だけでそれを放り投げる。「やれやれ、と。鍵かけようぜ、鍵。あんな連中、いちいち相手にしてられねえぞ、と」
「処分しないのか」
「疲れるだろ」おれが思うに、あのサンプルたちはどれだけ細切れにしたところで、そのぶんだけ増殖するに違いない。
だいいち、おれらは遭難してるんだぞ、遭難。この深海に閉じこめられた世界で、あのモンスターたちがどんな進化をするかなんて、のんびり心配してられるかってんだ。
レノは扉に取りつき、電子キーをかけたあと、念のため上下についているかんぬきを確認した。
そうして足もとにある最後のかんぬきを引いていると、背後から声がかかる。「なにしてるんだ？」
「あかずの間(ま)を作ってるに決まってるだろ、と……」応えてから、レノはぴたりと手を止めた。
いまの、めっちゃくちゃ無愛想な声って……ルードじゃねえよな。
振り返る彼の首の骨が、ぎぎぎと音を立てるようだった。
案の定、そこに立っていたのは例の金髪ソルジャーだ。相変わらず細身の身体に不似合いな大剣を背負い、えらそうに腕組みして、それなのに本気で不思議そうに彼を見おろしている。そしてその横にはニンジャ娘とでたらめパイロット、それにルードが意中の女の子がいた。
レノは驚愕の声を必死にこらえた。なんでこいつらがいるんだよ。どうやってここに来やがったんだ？
「またおまえら……よくよく変なところで会うもんだな、と」
ルードは扉のわきに寄って、心なしか身を縮めている。モンスターの詰めものを渡されるほうが幾分ましだとでも言いたげだ。
ニンジャ娘がレノに向かって、びしっと指を突きつけてくる。「そのむこうだな！」
「……なにが？」レノは鞭(ロッド)を握りなおしながら彼らを睨みまわした。
「お宝！」まるでレノのことなど眼中にないという調子で大股に進んできた彼女は、彼がせっかく閉ざした扉を開放しにかかる。
「おいおい」レノは片手でかんぬきを引き返しつつ、慌てて叫んだ。「この中はモンスターの楽園だぞ、と」
「んなもん、かんけーないね！」彼を強引に押しのけ、無防備に背中を見せながらあちこちの鍵をいじり出すニンジャ娘。
レノは武器を握っていることも忘れ、茫然と彼女の動作を見守ってしまった。あんたな、おれが誰だかわかってんのか、と？
次々と鍵をあけるニンジャ娘。その背後に立ちながら喫煙家のパイロットがレノに顔を向けた。そしてぷかりと煙を吐き出し、肩を竦める。「この輸送機(ゲルニカ)にマテリアが積んであったってんで、ユフィが駄々捏ねてよう。ま、好きにさせてやってくんな」
知らねえぞ、と。レノは一行に道を譲りながら、へらっと笑ってしまった。向かい側の壁にぴたりと身を寄せ、ルードが無言で冷や汗を流しつづけている。
「でも」と黒髪のグラマーがクラウドの袖をひっぱりながら訊ねた。「ほんとにあるの、マテリア？」
「気がすむまで探して、見つからなければ諦めるだろ」
「いつ気がすんでくれるのよ」
「さあ？」
「ねえねえ」ニンジャ娘が最後の砦の電子キーにいらつきながら振り返ってくる。「これ、どうやってあけるのさ」
レノがカードを取り出すよりも早く、クラウドが前に進んだ。「どけ」と呟くと同時に片足でドアの合わせ目を蹴りつける。ばん、とむしろ気分爽快なほど思いきりよく、鉄扉がむこうに撥ねていった。
「やっぱ、アンタいると便利だよな。笛吹いたら飛んできてくれるなんてサービス、ない？」
「報酬次第だな」
渡しそこなったカードを口にくわえ、レノは脱力する。こういうやつらがいる限り、どんなに文明的な鍵もかけるだけ無駄だぞ、と。
「うわあ」さっそく中へ入ったニンジャ娘が、さすがに驚いた声をあげる。「うようよ、うようよ、いっぱいいるよ」
パイロットが槍を構えなおし、新しい煙草を取り出しながら呟いた。「かーっ、ここに来てまでモンスターかよ。でも、あんま、うまそうじゃねえな」
レノは眉を寄せた。思わずルードと視線を合わせると、彼も聞き違いかと首を傾げてくる。
「ヴィンセント連れてくればよかったかしら？」黒髪の可愛い子ちゃんがパイロットの身体越しに内部を眺めている。「見たことないものばっかりよ。調理法もいろいろ研究しないと」
待てって。あんた、その顔でいま、なに言ったんだ、と？
「さあて、探すとすっか！」ニンジャ娘が張り切って奥へと驀進していった。
「夕飯までには戻ってらっしゃいよ」そうニンジャ娘の背中に叫ぶと、長い黒髪をかきあげながら彼女は戻ってくる。「じゃ、わたしはほかのところ探すから」
ソルジャーが頷き、パイロットが彼女を振り返る。「おうティファ、ついでだから壁に張りついてるタークス連中も連れてけよ」
「あら、そうね」彼女はくるりとレノに目を向け、さらに反対側で凍りついているルードへ視線を移動させる。「そういえば、あなたたち、こんなところでなにしてたの？」
ルードが素直に遭難していたんだと無言で応えている。おまえさんのコミュニケーションがこいつらに通じなくてよかったぜ。タークスの意地と誇りにかけて、助けを待ってたなんて言えるもんか。
貨物室からニンジャ娘の暴れる声が聞こえてくる。「ひゃあ、でっかい花のおばけがいるよ！」
「手伝うか？」怒鳴り返して訊ねるソルジャー。片手間といった具合に彼の足は甲殻類を踏みつけている。
「いらない、いらない」楽しそうに鼻歌まじりで応えているニンジャ娘。「面倒だから、血祭！」
パイロットが慌てて通路に出、素早く扉を閉めた。閉じこめられたのはニンジャとソルジャー。中でなにが起こってるのかわからないが、こいつら、本当に仲間なのか？
「シド」ティファが吐息をつきたそうにしながらパイロットを睨みつける。「あのふたりを放っておいたらなにもかも破壊しかねないって、自分からついてきたのはあなたでしょ。いっしょに行きなさいよ」
「オレ様、モンスターといっしょに切り刻まれるのはごめんだって」
「しょうがないわね、もう……ねえ」とティファはちらりとレノに目をやってくる。「それ、マスターキーじゃない？ 貸してくれないかしら」
レノは口からカードを外した。「なにするんだかな、と？」
「立ち消えになってた飛空艇の改造設計案、ロケット村に運ぶところだったんでしょ。書類が貨物室なんかにあるわけないから、コックピットだと思うの」
こいつら、どこでどう情報を集めてんだろうな。「……それで？」
応えたのはパイロットだった。「いま鍵がかかっててよ、入れねえんだ」
「蹴りあけりゃいいだろ」
「そりゃね」ティファは中で暴れているはずのソルジャーを確認するように、無意識といった感じで鉄扉を振り返った。「でも、浸水してるかもしれないし、そういう状況で扉壊したら、どうなるかわからないでしょ」
へえ、そうかい。そのくらいの分別はあんたたちにもあったんだな、と。
「さ、行きましょう」ティファはパイロットを促がし、自分から先に通路を進んでいく。
レノはしぶしぶと、ルードは心なしか嬉しそうに黒髪グラマーのあとをついて歩いた。
コックピットのドアは確かに鍵がかかっていた。墜落のさい、緊急閉鎖機構が働いて自動的にロックされたのだろう。ティファが浸水の心配をしていたが、その扉のどこも変形しておらず、水圧に破裂しそうな様子もなかったので、レノはカードを使ってドアをあけた。
コックピットは機器類が沈黙している以外、完全な状態のままだった。横長の大きなフロントガラスのむこうには黒々とした深海の風景が澱んでいる。その窓のそばを、原始的な平たい軟体魚類がのっそりと通りすぎていった。
ふたりのパイロットがシートに身を預けたまま事切れている。おそらく墜落の衝撃に耐えきれなかったのだろう。レノやルードさえ気を失ったのだ。肉体強化もしていない普通の人間なら何秒ももたなかったに違いない。
ティファもシドもしばらくのあいだ沈黙してその遺体を見つめてから、さっそくあちこちの棚を引きあけはじめる。
レノはパイロットたちをシートから引きずりおろし、遺体を廊下に出しておいてから計器類を点検しはじめた。
もとよりエンジンなどかかりはしないし、この輸送機(ゲルニカ)が息を吹き返すわけでもない。この機内が明るいのは予備電源が働きっ放しであるというだけだ。
彼はあちこちのスイッチをいじり、救命関連の操作盤を見つけ出した。
ルードに合図しようと振り返ると、彼は、ぼーっとミニスカートから覗く細い足に見とれている。
レノはそのタコ頭を蹴りつけた。ったく、状況を考えろってんだ、状況を。おまえが夢中になってるその可愛い子ちゃんは指名手配のテロリストで、本来なら仲よく宝探しをして楽しんでいられる関係じゃねえんだぞ、おれらは。
ところが、パイロットがなぜだか、えらくなれなれしく友情を深めようとしてくる。「おう、おまえさんたち、ここから脱出できねえで困ってたんだろ？ こっちの潜水艦に乗せてやっからよ。ちっと手伝えや」
「ねえ、シド。ハイウィンドはいまのままでもいいんじゃないの？」ティファが棚の中をかき出しながら呟いた。「わざわざ改造しなくたって、充分に空飛んでるんだし」
「わかってねえなあ、充分ってだけじゃあ満足できねえのが男ってもんだ。なあ、ルードさんよう」
こくりと適当に頷き、パイロットシートのわきにあったアタッシュケースを持ちあげるルード。「これが設計図だ」
「おお、サンキュ」嬉々として受け取るパイロット。
レノはシートに身を沈めながら深々と溜息をついた。
「見つかったんなら戻るわよ」ティファが、最初から出してくれればいいのにという目でルードを睨みつける。「どうせユフィ、お腹すいたってうるさくなるんだから、帰って支度しとかないと」
呟きながらも、なにげに酸素マスクや医薬品を巾着の中に突っこんでいる彼女。結局こいつら、あれこれと拾い歩くのが趣味なんだろうな、と。
ティファが廊下に出ていき、パイロットが煙草を投げ捨てながらあとを追う。
つられるように出ていきかけたルードを、レノは引き止めた。
と、ティファの驚いた声が聞こえてくる。「なによ、この水？」それから彼女はすぐに浸水の原因に思いあたったらしい。「クラウド！ ユフィ！」と叫んで、あっというまに通路を突進していった。「またどこか壊したわね！」
窃盗常習犯のふたりが完全にコックピットを出たところでレノは素早く怒鳴った。「ドアを閉めろ、ルード！」
条件反射的に大男はコックピットを閉めきった。扉が閉まる直前、驚いたように振り返るパイロットの姿が見える。
「完全ロックするんだぞ、と」レノは続けて言いながら緊急射出装置に手をかけた。コックピットのみを切り離して空高く放り投げ、パラシュートを広げてパイロットの安全を確保する機構だが、機体が軽くなったぶん、噴射と内部の空気である程度の深度まで浮上できるだろう。
百六十度に展開するフロントガラス一面に瞬くまに水泡があがった。
次の瞬間には、レノの身体がぐんとシートに押しつけられる。まったく準備をしていなかったルードが、短い唸り声をあげて床に這いつくばった。
急激な上昇による眩暈が落ち着く頃、レノの思惑どおり、切り離されたコックピットはだいぶ海上に近づいているようだった。これは空を飛ぶ乗りもので深度計などついていないが、窓から見える海の色が、かなり明るくなっていることからもそれがわかる。
「助かったぞ、と」
ルードがのろのろと身を起こした。「こんな必要あったか？」
「なんだ、一生あそこにいたかったのかな、と？」
「………」いや。首を振りながら彼は溜息をつく。「ティファといっしょに潜水艦に乗れたのに」
「人外魔境のソルジャーもいっしょだぞ、と」
「………」それはいやだな。
「そうそう、なにが恐ろしいって、逃げ道のないところであの連中と鉢合わせすることだろ。だからよ――」
レノはルードを振り返って、ぴたりと言葉を途切らせた。同僚の背後に、ふよんと浮かぶ透明な物体が見えるのは気のせいでも幻でもないだろう。
ルードは怪訝に首を傾げ、そっと背後にサングラスの目を向けた。
彼らはそろって無言の悲鳴をあげ、フロントガラスを突き破って海の中へと逃げる。
水泡の中でめちゃくちゃに手足を動かし、先に浮上していってしまうそれらを追いかけるように彼は水上をめざした。
ちらりと足の下を見やると、再び沈下していこうとする短いロケットの尖端のようなコックピットから、玉虫色に光を反射するゼリーのモンスターがまろび出るところだった。
ああ、あのモンスターはきっと、クラゲの新種としてどこかの図鑑にでも載ることだろう。
とにかく、おれには関係ねえ。
モンスターでもチョコボでも、好きなだけ繁殖すりゃあいいんだ。
おれはただ、この冷たい水からあがりたいだけなんだよ。
ちくしょう、せっかく風邪も治ったところだってのに。またイリーナの米粥を食わされる破目になるな、と。
もう、二度と海なんかに近づくもんか。