Problem children

生命のしらべ１

迷子のチョコボを求め、学園を奔走する盗賊ジタン。
ひとりで勉強する道を選んだスコールと別れ、彼はバッツとともにチョコボ探索を続けていた。

つきあいのよいふたりに、いま強き絆を断ち切ろうとする無粋な旋律が迫る。
試練を乗り越えたとき、彼は進級することができるのか。

＊＊＊

　月の渓谷教室は相変わらず広々としていて、乾いたその大地を星の光に晒していた。
　静かで読書にはもってこいの空間だ。
　しかし、大抵、広々とした場所には遊びたがりの子どもたちが集まる。ティーダがボールなどを持ちこめば、ここが図書室であるということも忘れてコスモス組の年少者たちは喜んで駆けまわったものだ。
　ところが、いまはバッツもジタンも遊ぶどころではなかった。正確には、バッツが相棒のボコの行方ばかり気にして、もう遊びも勉強もどうでもいいという気分だったからだ。
「ボコー、ボコー」といいかげん、本当にボコボコにしてやろうかというほどしつこく捜しまわるので、ジタンもそろそろ飽きてきた。
　どうせ、ボコはチョコボだ。どこでどううろついていようが、モンスターに襲われることもなければ、イミテーションの教師や生徒だって餌をくれる。そんなに心配することはないと思うんだけどなあ。
　まあ、もっとも、セシルに見つかれば鍋を用意されるかもしれないけど。また、ティナに見つかると氷漬け、クラウドにとっ捕まればレース用チョコボとしてのスパルタ教育を施され――やっぱり安心はできないか。
　それでも、こんなチョコボがいそうもないところばかり捜したってさ……。
「なあ、バッツ、勝負しないか？」とジタンは切り出した。
　バッツは岩陰を覗きこんでいた姿勢で振り返る。「勝負？」
「ああ」とジタンはいい思いつきかもしれないと考えながら頷いた。「先にボコを見つけたら勝ちってのはどうだ？」
　バッツは、ふふんと胸を逸らす。「そりゃ、余裕でおれが勝つな！」
「おっと？」ジタンはにやりと自分の顔を指し示してみせる。「こっちは本職の盗賊だぜ。お宝――ボコがお宝かどうかはともかく――探しなら、こっちがうわ手さ」
　バッツは、むきになったらしい。「なら、おれは盗賊のモノマネでボコを捜し出してやる！」とジタンの真似をして自分を指し示してみせた。
　なにがどうあれ、こうして競争ということになれば、おたがいに夢中になる性格のなのは重々承知だ。
　ジタンはまた、にやりと笑った。「ボコは――こっちだ！」
　フライングで駆け出し、月の渓谷のでこぼこの地面を蹴って彼はまっすぐ走った。
　やがて、「おれもこっちだ！」とバッツが追いついてくる。「行くぜ、行くぜー！」と、もう夢中になってジタンを追い越していった。
　ジタンは軽く吐息をつくと、鼻をこすり、バッツをさらに追いかけて速度をあげる。「真似するなよな！」
　とりあえずバッツの気分も浮上したし、あとはボコが見つかればそれでよし。なんか、みんな単位がどうのこうのって言ってるけど、オレたちには関係ないしな。
「おっ」とバッツが走りながらひたいに手をかざした。
「なに見つけた？」
「イミテーション！」
　そんなもの見つけるなよと呟きながら、ジタンはダガーを素早く取り出した。イミテーションは教師なら授業の代行しようと俺たちを捕まえようとするし、生徒なら問答無用でバトルだ。どっちにしても、まじめに勉強する気がない彼らは大抵、暴れてディスティニー・ポイントを奪う。そうして成績を改竄してきたのだ。
　ただ、どうあってもバッツには哲学、ジタンには芸術学の評価は変えられない。この学園の、そういうシステムだ。
　結局のところ、生徒それぞれにはちゃんと壁が用意してあるってか？　学校っていったい、なんなんだろうな。
　イミテーションは紫色のガラス細工でできたようなクジャの姿だった。ジタンは遠慮なく短剣を振りまわし、イミテーション教師を遠ざけた。そこへバッツがジタンの持つものと同じ短剣を両手に回転しながら斬りこむ。
　あいつ、とことん俺のモノマネするつもりかと、ジタンは笑いながらシフトブレイクを繰り出した。細い雷が相手の四方を封じ、その中心で水の柱が噴き出す。その水流に吹き飛ばされたイミテーションを、さらにバッツのフラッドがヒットした。
「よっしゃ、飛んでけえ！」
　ジタンは軽く前方に跳ねあがると、その周囲に魔法的な竜巻を生み出した。それはバッツのフラッドに吹き飛ばされていたイミテーション教師にとどめを刺すことになる。
「楽勝、楽勝！」とバッツが腰に手を当てて胸を張った。
　ジタンもくるりと回転して地面に降り立つと、ダガーをいったん振りあげ、そしてしまいこむ。「おれたちふたりなら、向かうところ敵なしだな！」
　上機嫌で歩き出し、しかし、ジタンはふと足を止めた。「ん？」
　どこからか視線を感じたような気がしたからだ。
　だが、教室のその月面世界ではなにも動くものはない。ひっそりと静まり返った岩漠と、暗い宇宙の空にぽっかりと浮かぶ青い星。
「どうした、ジタン？」とバッツが近づいてきた。
　ジタンは首を振った。「いや、なんでもない」そして気のせいだろうと気持ちを切り替える。「さあ、これだけじゃ終わらないぜ。盗賊の技ってのを見せてやる！」
　バッツもにやりと笑った。「負けてたまるか！」
　そうして彼らは次の教室へとクリスタルゲートに向かっていった。

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To be continued. 　ジタン編NEXT >>　→未