FF7 MEMORIES

「おーい、こっちじゃ、扉の鍵は開いとるから、入ってくるがいい」

　ホーホーホウ。それはわしにしか扱えん機械じゃよ。

「ホーホーホウ。そろったようじゃな？　それじゃ、始めようかの。ほれ、そこに立つんじゃよ」

　こいつはすげえ！
　うわ〜！　本物の宇宙みたい！
　きれい……ほんとの宇宙みたい。ね、クラウド？
　おっ！　おおっ！　アタシを驚かせるなんて、やるじゃないか！

「ほほ……そうじゃろう。これがわしの自慢の実験室じゃ。この宇宙の仕組みがすべて、この立体ホログラフィシステムにインプットされておる」

　おおっ！　星が流れてるぜ！　こいつはすごいぜ！
　見て見て！　流れ星！　スゴイスゴイスゴーイ！
　あっ、流れ星！　うわー、ステキ。
　な、なんだ、流れ星？　ヒュ〜。

「ホーホーホウ。そうじゃろ、すごいじゃろ。さて、そろそろ本題に入ろうかの。人間は……いつか死ぬ。死んだらどうなる？　身体は朽ち、星に還る。これは広く知られているな。では、意識、心、精神はどうじゃ？　じつは精神も同じく星に帰るのじゃな。人間だけではない。この星、いや、宇宙に生きるものすべて等しく星に帰った精神は混ざりあい、星を駆けめぐる。星を駆けめぐり、混ざり、分かれ、【ライフストリーム】と呼ばれるうねりとなる。ライフストリーム……すなわち星をめぐる精神的なエネルギーの道じゃな。【精神エネルギー】この言葉を忘れてはいかん。新しい命……子どもたちは精神エネルギーの祝福を受けて生まれてくる。そして、時が来て死に、また星に帰る……むろん、いくつかの例外はあるが、これがこの世界の仕組みじゃ。いろいろ話してしまったが、まあ、これを見たらわかるじゃろ。精神エネルギーのおかげで木や鳥や人間は……いやいや、生きものだけではない。星が星であるためには精神エネルギーが必要なんじゃ。その精神エネルギーがなくなったらどうなる？……これが星命学の基本じゃな」
「精神エネルギーが失われると、星が滅びる……」
「ホーホーホウ。精神エネルギーは自然の流れのなかでこそ、その役割を果たすのじゃ。無理やり吸いあげられ、加工された精神エネルギーは本来の役割を果たさん」
「魔晄エネルギーのことを言っているのか？」
「魔晄炉に吸いあげられ、ずんずん減っていく精神エネルギー。魔晄炉によって過度に凝縮される精神エネルギー。魔晄エネルギーなどと名付けられ、使い捨てられているのはすべて星の命じゃ。すなわち、魔晄エネルギーはこの星を滅ぼすのみ……じゃ。星の話……星とともに生きた者の話……もっと知りたいか？　それなら、長老たちの話を聞くとよかろう」

　ナナキが？　父親を腑抜けと？　そうか、ナナキがそんなことを……。

　おお、あった、あった。わしの仕事はこの谷に伝わる伝説や星の知識を本にすること。こうすれば、わしが星に還っても、子どもたちにいろいろなことを教えてやれる……ん？　おお、これまたお客さんか。いいとも、いいとも。わかっとる、わかっとる。わしになにか聞きにきたんじゃろ？　そうじゃろ？

　約束の地の話

約束の地。そうか、知りたいか。約束の地というのはな、はっきり言って存在しない。わしはそう考えておる。いやいや、存在する。ふむふむ……そうとも言える。ようするに、わしらには存在しないが、古代種にとっては存在した。ミもフタもない言いかたをすれば、約束の地は古代種の死に場所じゃ。古代種の人生は厳しい旅の日々じゃ。草や木、動物、あらゆる生きものを増やして精神エネルギーを育てる旅、彼らのつらい旅は生きているあいだ、ずっと続いたという……その旅を終え、星に帰る場所……つまり死に場所が約束の地。あん？　至上の幸福？　古代種にとっては星に帰る瞬間、運命から解き放たれる瞬間、それは至上の幸福ではなかったか……と、わしはそう考えておるんじゃ。いまとなっては真実はわからんがの。

　そういうわけじゃない

なんじゃ、違ったのか。悪いんじゃが、伝説とか昔話とか、わしにはそんな話しかしてやれんよ。

　そういえば、おまえさんといっしょに来た連中がコスモキャンドル前に集まっとったよ。もう出発するんかい？

　ほいほい、なんじゃなんじゃ？

　古代種の話を……

古代種といえば、ガスト博士なのじゃ。ときどきここにも来ておった。博士は古代種の謎を追いつづけた神羅の学者だったのじゃ。神羅っぽくない生真面目な人じゃ。かれこれ三十年近く前になるが、ついに古代種の死体を見つけたと喜んでおった。確か……ジェノバとかいう名前をつけて、いろいろ研究しておったのじゃが……ある日、疲れきった顔をしてここに現われてな。ぶつぶつ言うには、なんでも、ジェノバは古代種ではなかったとか、とんでもないことをしてしまったとか……それ以来、行方不明じゃ。神羅にも戻らんかったそうじゃ。というわけでな、ガスト博士に会うことがあったら伝えてほしいんじゃ。コスモキャニオンの酒好き爺さんが古代種の話を聞きたがっているとな。ま、話したいのはやまやまじゃが、古代種のことは言い伝えや伝説ばかりで真実はもう誰にもわからんのじゃ。

　なんでもない

……チェッ、つまらんのう。長話をしたいのう。

　そういえば、おまえさんといっしょに来た連中がコスモキャンドル前に集まっとったよ。もう出発するんかい？

「コスモキャニオン……アバランチの生まれた場所……あいつらと約束してた。いつか……神羅からこの星を救ったそのときには、コスモキャニオンへ行って祝杯をあげよう……ビッグス……ウェッジ……ジェシー……みんな……みんないなくなっちまった……この星を守るために……。本当に？　この星の命を守るため？　オレたちは……オレは……神羅が憎かっただけ……そのオレに……これ以上旅を続ける資格はあるのか？　あいつらは……それを許してくれるのか？……いまはわからねえ。だがよ、オレは決めたんだ。オレがなにかすることで、この星が……この星に住む人間が救われるならオレはやるぜ。正義だとか、復讐だとか、そんなことはほかのやつらが勝手に決めりゃいい。うおおおお！　オレはやるぜ！　もう一度……もう一度、アバランチの結成だ！」

「ねえ、クラウド、焚火って不思議ね。なんだかいろんなこと思い出しちゃうね。あのねえ、クラウド、五年前……ううん、やっぱりやめる。聞くのが……怖い」
「なんだよ」
「クラウド……どこかに行っちゃいそうで……クラウドは……本当に、本当にクラウド……だよね」

「わたし、勉強しちゃった。長老さんに教えてもらったの、いろいろ。セトラのこと……約束の地のこと……わたし、ひとりだから……ひとりだけになっちゃったから……」
「俺が……俺たちがいるだろ？」
「わかってる。わかってるけど……セトラはわたしだけなの」
「俺たちじゃ、力になれないのか？」

　予想どおり、退屈なとこだね〜。早く、どっか行こ！　そいで、マテリア探そ！
　こんなん、何年ぶりやろか……なーんかいろんなこと思い出しますなあ。

「……ずっと昔、オイラが本当に子どもの頃だ。あの日もやっぱりみんなでこの日をかこんで……。やっぱり話すのやーめた」
「どうしたんだ？」
「オイラの両親のことだからさ。母さんの話をすると、オイラの胸は誇らしい気持ちではちきれそうになる。それはいいんだ。でも、父親のことを思い出すと、オイラの胸は怒りで……」
「……やはり父親が許せないか」
「あたりまえだよ。あいつは……母さんを見殺しにしたんだ。ギ族が攻めてきたとき、あいつはひとりで逃げ出した。母さんと谷の人たちを放り出してさ！」
「……来るがよい、ナナキ。おまえに見せたいものがある」
「……？」
「ちょっとばかり危険な場所だ。クラウドよ、おまえとあとひとり、いっしょに来てくれ」

　どこ行こうってんだ。
　わたしも行っていいの？
　なにかしらね。レッド13に見せたいものって。
　見せたいものってアレかな？　ほら、この谷に代々伝わるマテリアとかさ！
　危険なんやったら、遠慮しますわ……。

　ホーホーホウ、用意はいいかの？

　ああ……

ホーホーホウ、なら行くとするかの。

　ちょっと待った

なんじゃ、まだか。用意ができたら教えておくれ。

「これでよし、さあ入った入った」
「あれ？　じっちゃんが案内してくれるんじゃないの？」
「なーに言うとるんじゃ。ちょっとばかり危険だと言うたじゃろ。年寄りを先に行かせるのか？　わしはあとからついて行くよ」

　なんじゃ、戻るのか？　わしはここで待ってるから、用意ができたらすぐ来るんじゃぞ。この扉、いつまでもあけておくわけにもいかんのでな。よしよし、それじゃ行くとしよう。

「不思議な形をした石だ（崩してみる／そっとしておく）」

「ホーホーホウ。ここにいるのは、みなギ族の亡霊じゃ。ある戦士に斃された、な」
「ある戦士……？」
「しかし、死してなお、ギ族の憎悪の精神は消えず、ライフストリームに帰ることすら拒んでいるのじゃ……先はまだ長いぞ、ホーホーホウ」

「見てのとおり、この洞窟はコスモキャニオンの裏へと続いておる。ギ族はわしらよりも身体も大きく、なにより残忍じゃ。ここから攻め入られたらひとたまりもなかったじゃろう」
「………」
「さあ、先へ進もうかの」

「その戦士はこの洞窟をひとりで走り抜けた。次から次へと襲いかかってくるギ族と戦いながら……」
「じっちゃん……その戦士って……」
「ホーホーホウ……あと少しじゃな」

「なんということじゃ……」
「じっちゃん、こいつは……？」
「死してなお……ギ族の亡霊が……澱んだ大気のように……これは……いかん！」

「ありがとう、クラウド、あんたたちのおかげでなんとか助かったよ。ナナキもいつのまにかずいぶん強くなっていたんじゃな」
「へへへ……そうかな？」
「やはりおまえを連れてきたのは間違いではなかったようじゃ……さ、おまえに見せたいものはすぐそこじゃよ」

「ここは……」
「……その戦士は、ここでギ族と戦った。ギ族が一歩たりともコスモキャニオンに入りこめないようにな。そして、自分は二度と村へ戻ることはなかった……見るがいい、ナナキ。おまえの父、戦士セトの姿を」
「……あれが……セト……？」
「セトはあそこでギ族と戦いつづけた。この谷を守りつづけた。ギ族の毒矢で体を石にされても……ギ族がすべて逃げ出したあとも……戦士セトはここを守りつづけた。いまもこうして守りつづけている」
「いまも……」
「たとえ逃げ出した卑怯者と思われても、たったひとり命を懸けてコスモキャニオンを守ったんじゃ。それがおまえの父親、セトじゃ」
「あれが……あれが、セト？……!?　母さんはこのことを？」
「ホーホーホウ……知っておったよ。ふたりはあのとき、わしに頼んだんじゃ。この洞窟は封印してくれとな。わしひとりで封印し、そのことは誰にも話してはいけない。こんな洞窟のことは忘れたほうがよいからと言ってな」
「………」
「……クラウド、勝手を言ってすまないが、わしら、ふたりきりにしてくれんかの」

「ナナキよ。クラウドたちと旅を続けるのじゃ」
「じっちゃん？」
「聞くのじゃ、ナナキ。クラウドたちは星を救うなどと言っておるな。正直なところ、そんなことができるとはわしには思えん。この星のすべての魔晄炉を止めても、星の死はほんの少し延びるだけじゃ。セフィロスとやらを斃しても同じこと。形あるものは必ず滅す、じゃ。だがな、ナナキ。わしは最近考えるんじゃ。こんなにも星が苦しんでいるのに、星の一員、いや、星の一部であるわしらにできることは本当になにもないのか、とな。結果はどうなろうと、なにかやることが大切なのではないか？　だが、なにかをするには、わしは年を取りすぎた……今年で百三十歳じゃよ。ホーホーホウ、じゃ。だから、ナナキよ、行けい！　わしの代わりにすべてを見届けるんじゃ」
「じっちゃん……」
「おまえがここを離れる前に、どうしても父親の真実の姿を見せておきたかったんじゃ……。わしが生きてるうちにおまえが帰ってきてよかったわい」
「じっちゃん……寂しいこと言うなよ。じっちゃんがいなくなるなんて、オイラ……」
「ホーホーホウ。わしは充分生きたよ」
「じっちゃん！　生きててくれなくちゃダメだ！　オイラは見届ける。星がどうなるのかを見届けて、そして帰ってくる。じっちゃんに報告するために」
「ナナキ……」
「オイラはコスモキャニオンのナナキ。戦士セトの息子だ！　その名に恥じない戦士になって帰ってくる！　だから、じっちゃん！」
「あれは……セトの……おお……セト……」
「セト……父……さん……」