FF7 MEMORIES

「神羅のマークがついてる。タイニーブロンコか……いいな、これ」

　神羅はよ、こういう便利なものは絶対にひとり占めしちまうんだよな。いただいちまおうぜ。
　貸してもらえないかしら……。
　もらっちゃお？　ね、クラウド！
　クラウド、盗もうよ！　神羅のもの盗むのは大好きなんだ！
　クラウドさん！　こんなもん取ったら、えらいことになるで！
　……見張っていようか？

「あの……なにか？」
「いや、なんでもないんだ。見せてもらっていただけだ」
「……もしそれが使いたいなら、艇長に聞いてください。艇長はきっとロケットのところにいると思います。わたし、シエラといいます。あなたたちは？」
「俺はクラウドだ」

　アバランチのバレットだ。
　ティファ。よろしくね。
　わたし、エアリス。
　ナナキ。またの名をレッド13。
　アタシ、ユフィ！
　占い屋ケット・シーいいます。
　ヴィンセント。仕事は……まあいいだろう。

「はあ……神羅の人たちじゃないんですね。わたし、宇宙開発再開のお知らせが来たのかと思って」
「……？」
「新社長のルーファウスさんが、ここへいらっしゃるそうなんです。艇長は朝からそわそわしてますわ」
「ルーファウスが！」

「おまえたち、なんだ？」
「艇長がここにいるって聞いてきたんだ」
「艇長だと？　艇長とはオレ様のことだ！　親からもらった名前はシド。みんなは艇長って呼ぶけどな」

　で、なんの用でい？

　このロケットのこと、教えて

お！　若いもんにしちゃなかなか感心じゃねえか。よし、ここはオレ様みずから説明してやることにしよう。長くてくだらない戦争中に神羅カンパニーがいろんな技術を開発したのは知ってんだろ？　いまは魔晄屋だが、昔は兵器開発会社だったからな。そんなかでよ、ロケットエンジンができちまったんだ。こりゃ、宇宙へ行けるってんで大騒ぎよ。夢はどんどん広がった。予算もばかすかつぎこんで試作、試作、また試作！　で、完成したのがこの神羅26号。パイロットには神羅一、いや、世界一の腕を持つオレ様が選ばれた。ま、当然と言えば当然だわな。いよいよ迎えた打ちあげの日、なにもかもうまくいってた。ところが、あののろまのシエラのせいで打ちあげはおじゃん。それがけちのつきはじめよ。神羅は宇宙開発を捨てやがった。あれだけ、これからは宇宙だ！　なーんて言って希望持たせてやがったくせによっ！　魔晄エネルギーが金になるとわかったら、もう終わりだ。宇宙計画なんてだれも見向きもしねえ。かね、金、カネだあ？　オレ様の夢をそろばん勘定だけで棒に振るない！　見ろい……この錆だらけのロケットを。こいつでオレ様は宇宙へ飛び出す最初の男になるはずだった。いまじゃ、毎日ちょこっとずつ傾いてらあ。このぶんだと、こいつが倒れるのが先か、オレ様がおっちぬのが先かってくらいだ……今回の若社長が来るって話だけが、オレ様に残された最後の望みさ……。

　ルーファウス来るって？

おう！　きっとよ、宇宙計画が再開されるって話に違えねえ。やっぱり若い社長に限るぜ！　夢があっていいやね。

　タイニーブロンコ貸して

なーにバカなこと言ってやがるんだ！　あれは大切なもんなんだ！　貸せねえよ。

「あ……クラウドさん。艇長、なにか言ってました？」
「いや……」
「そうですか」
「ケッ！　シエラよう、どうしててめえは、そんなにどんくせんだよ！　客が来たら、茶くらい出せよな、このウスノロ！」
「ご、ごめんなさい」
「俺たちのことは気にしないでくれ」
「うるせえ！　うだうだ言うな！　客は椅子に坐っておとなしくしてろ！　あーーっ！　腹が立ってきた！　おい、シエラ！　オレ様はタイニー・ブロンコを整備しに裏庭に行ってるからな！　客に茶あ、出しとけよ！　わかったな！」

　ケッ、いけすかねえ野郎だぜ。
　シエラさん、可哀相。
　むっか〜！　態度？　悪いわよ。
　なんてやつだよ……！
　なんか、やな感じ〜！
　なんや、ごっつうキツい人やなあ〜。
　………。

「悪かったな、俺たちのせいで」
「とんでもない、いつものことです」

　いつもだって？　そりゃ、ひでえな！
　いつものこと……どうしてシドは、あなたにあんなにつらくあたるの？
　いつも？　いつもあんなこと言われて黙ってんの？
　それはひどすぎると思う。
　なんだよ、それ？　アタシなら、ぶん殴ってやるよ！
　いっつも〜？　いっつもあんなにガーガー言われてますんか？　たまらんなあ……。
　……よく耐えているな。

「いいえ……わたしがドジだから、しょうがないんです。わたしがあの人の夢を潰してしまったから……」
「なにがあったんだ？」

「おら、そんな亀みたいにちんたら仕事してるんじゃねえよ。お月さんが待ちくたびれてそっぽ向いちまうぜ！」
「す、すみません」
「そんな酸素ボンベなんかをいつまでもガチャガチャガチャガチャ、チェックしてんじゃねえよ！　おい、シエラよう、おまえがまじめなのはいいんだけどよ、そんな酸素ボンベ、いくらチェックしても無駄だぜ。そんなもん、天地がひっくり返ったって壊れやしねえんだから」
「え……でも」
「でももへちまもねえ！　おめえは馬鹿じゃねえんだから、もちっと手ぎわよくやれよ」
「ごめんなさい……」

「いよいよ私たちの夢がかないますね！」
「僕たちも鼻が高いですよ。この神羅26号の打ちあげに関われたなんて」
「艇長、整備は完璧です！　あとは行くだけです！」
「おう！　任せとけ！　ちょっくら、行ってくるぜ！」
「さあ、艇長！　私たちの夢を乗せて宇宙へ！」
「ありがとうよ、おめえら！」
「ご無事をお祈りしております！」

「計器オールクリア。神羅26号、発射準備よし」
「エンジン圧力上昇中。神羅26号、発射三分前。カウントダウン開始」
「……いよいよだな。な、なんだ？　なにが起こった？」
「パイロット・シド、緊急事態です！　まだ船内のエンジン部にメカニックが残っています！」
「なんだって!?　どこの馬鹿野郎だ？」
「わかりません。エンジン部と音声繋ぎます！」
「おい、コラ！　そんなところにいるのはどこの馬鹿野郎だ？」
「艇長、わたしです、シエラです。わたしに構わず、打ちあげを行なってください」
「シエラあ!?　いまごろ、なにしてやがんだ！」
「どうしても心配だったんです。酸素ボンベのテストで満足いく結果が得られなくて」
「馬鹿野郎！　そこはなあ、打ちあげのとき、うんこっカスも残んねえほどバカ熱くなるんだ！　そんなとこにいたら、一瞬で黒焦げだぞ！　おまえ、死んじまうんだぞ。わかってんのか！」
「いいんです。これさえ直れば、ロケットは打ちあげできるんです。もう少しで終わりますから」
「なにがもう少しだ！　おまえ、死んじまうんだぞ！」
「シド、カウントダウン開始だ。もう間に合わない！　エンジン始動する！」
「お、おい、ちょっと待て！　まだシエラが残ってるんだぞ！」
「どうする、シド？　ここで中止すれば、次の打ちあげまで六か月もかかっちまうぞ！」
「くっ……シエラの野郎め……オレ様を人殺しにする気か？」
「艇長！」
「シエラか？」
「七番ボンベまでチェック終わりました。八番ボンベが終わればオールクリアです」
「シエラ……早くしろ……このままじゃ死んじまうんだぞ……」
「エンジン点火三十秒前。カウントダウンを開始する。シド！　シエラのことは諦めろ。もう間に合わない！」
「オレは……オレ様は……オレはどうしたらいい……？」
「エンジン点火まで十五秒。船内温度上昇中」
「ああ、月が……宇宙が……オレ様の夢が……」
「エンジン点火！」
「ンガーーーーーーッ！」

「あの人は、わたしを助けるためにエンジンの緊急停止スイッチを押したのです。それ以後、宇宙計画縮小が決まってロケットの発射は中止になりました。私のせいであの人の夢が逃げていったんです……だから……いいんです。艇長がどう思おうと、わたしはあの人に償わなくてはなりません」
「シーエラッ！　まーだ茶を出してねえな！」
「ご、ごめんなさい」
「ほれ、とっとと坐れ！　オレ様のもてなしが受けられねえってのか！　遅いな……ルーファウスはよ」
「うひょ！　久しぶり！　シドちゃん、元気してた？」
「よう、太っちょパルマー。待ってたぜ！　で、いつなんだ、宇宙開発計画の再開はよお？」
「うひょひょ！　わし、知らないな〜。外に社長がいるから聞いてみれば？」
「ケッ！　相変わらず役立たず太っちょめ」
「太っちょって言うな〜！　うひょ！　お茶だ！　わしにもちょうだい。砂糖と蜂蜜たっぷりで、ラードも入れてね」

　ルーファウス社長が来たのは、宇宙開発を再開するためなのでしょうか？
　うひょひょ？　どこかで会ったかな？　うひょ！　お茶はまだかな〜？　砂糖と蜂蜜たっぷりでラードもどっさり入れてね。うひょひょ！

「ななな、なんでい！　期待させやがって！　そんなら、今日はなんの用で来た？」
「タイニー・ブロンコを返してもらおうと思ってな。我々はセフィロスを追っている。ただ、どうやら、いままで見当違いの方向を捜していたようだ。だが、いまは、だいたい行く先が掴めてきたのでな。我々は海を越えなくてはならないんだ。それで、おまえの飛行機を……」
「ケッ！　最初は飛空艇、次はロケット、今度はタイニー・ブロンコか。神羅カンパニーはオレ様から宇宙を奪っただけでは足りずに、今度は空まで奪う気だな！」
「おやおや……いままで、きみが空を飛べたのは神羅カンパニーのおかげだ。それを忘れないでくれたまえ」
「なんだと！」
「あ、あの……あなたたち……こちらへ……あなたたち、タイニー・ブロンコを使いたがっていましたよね。パルマーが持っていくそうです。お話してみたら？」

「うひょ……なんでわしがこんなこと……わし、宇宙開発部門統括……」
「そのタイニー・ブロンコは俺達がもらう」
「おまえら、どこかで見たな……そうだ！　神羅ビル！　プレジデントが殺されたときだ！　うひょ！　け、け、け、警備兵！」

　止まんないっ！
　止まらないの！
　飛びあがっちゃうよ！
　ダメ！　飛んじゃう！
　あかん、飛んでまう！
　止まらないな……。

「構うな、乗りこめ！」

「シィィーット！　尾翼がやられてるじゃねえか！」
「不時着か……」
「さあ、でっけえ衝撃がくるぜ。ちびらねえようにパンツをしっかり押さえてな！」

「こいつはもう飛べねえな」
「ボートの代わりに使えるんじゃないか？」
「ケッ！　好きにしろい！」
「シド、あんたはこれからどうするんだ？」
「さあな。神羅とは切れちまったし、村は飽きちまった」
「奥さんは？　シエラはいいのか？」
「奥さん？　笑わせるない！　シエラが女房だなんて鳥肌が立つぜ。おまえらはどうすんだ？」
「セフィロスという男を追っている。神羅のルーファウスもいつか斃さなくちゃならない」
「なんだかわからねえが……面白そうじゃねえか！　オレ様も仲間に入れろ！」
「みんな、どうだ？」

　もちろん、いいわよ。
　賛成よ。
　オイラは構わないよ。
　いいんじゃないの〜。
　ええのとちゃいますか？
　好きにしろ。

「よろしくな、クソッタレさんたちよ」
「クソッタレ……」
「この時代、神羅に逆らおうなんて馬鹿野郎のクソッタレだ！　気に入ったぜ！　で、どこへ行くんだ？　ルーファウスのやつはセフィロスを追って【古代種の神殿】に行くってほざいていたが」
「本当か？　どこだ、その【古代種の神殿】っていうのは？」
「さあな。あのクソ息子は見当違いの方向って言ってたから、ここからかなり離れたところじゃないのか？」
「情報を取るために、とにかく陸地を探そう。【古代種の神殿】……気になる名前だな……」

　……エヘ。西へ行くっていうの、どう？　ぜーんぜん理由なんかないけどね。もう、ぜーんぜん！