FF7 MEMORIES

「……ここは……クラウド!?　どうしたの、クラウド……？　いったい、これは……？　ここは、あなたの夢のなか……？……それとも……あなたの……意識なの……。捜してるのね？　クラウド……自分を……手伝うよ、わたしも。本当のあなたを取り戻すため、一緒に頑張ろ！　でも……どうすれば……？」

「ニブルヘイムの門……五年前、セフィロスとともにこの門をくぐり……そうして……すべてが始まった……」
「通じているの……ニブルヘイムに……？　そうね……確かに、そこから始めるのがいちばんなのかもしれない……行ってみましょう、クラウド。つらいかもしれないけど……わたしがついてるから……」

「ほら……クラウド、給水塔がある……おじいさんの宿屋もあるね。村で一台きりのトラック。わたしたちが子どもの頃からここにあったんだよね？　これがあなたの記憶のなかのニブルヘイムなのね。わたしのニブルヘイムと同じ。だからここは……わたしたちのニブルヘイムだね。五年前……ここにふたりのソルジャーがやって来た……セフィロスと……若くて陽気なソルジャー。そのときの様子……もう一度教えて？　五年前……わたしはこのとき初めて本物のセフィロスを見た。この人が……英雄セフィロス。クラウドが憧れていた最高のソルジャー、セフィロス。でもね、正直に言うと、なんて冷たそうな人って思ったの。嫌な予感がしたの憶えてるわ」

「違うの、クラウド。言葉にすると……恐ろしいことになりそうで、ずっと隠してた。でも、いまは隠さずに言うね。あなたはいなかった。クラウド、五年前、あなたはニブルヘイムには来なかったのよ。わたし……待ってたのよ。でも、クラウドは……来なかった。あのとき派遣されてきたのはセフィロスともうひとり……」
「セフィロスとともにニブルヘイムに出向いたソルジャーはクラウドでは……なかった……？」
「わたしには……もうなにも言えない……答えはあなたが自分自身で見つけなきゃ……それが見つけられないと……あなたは……急がないで、クラウド。ゆっくり……少しずつでいいの。ね？」

「星空の給水塔……あの夜のふたりきりの約束も……偽りの記憶でしかないとしたら？」
「あせっちゃダメ、クラウド……答えを急いで、自分自身を追いつめないで。たくさんの小さな想いを確かめながら戻っていけばいいのよ……ゆっくり……少しずつね……そう、例えば、あの夜空の満天の星たち……最初から、ね？　クラウド、思い出して。そう、わたし、この服を着てた。あ……そうだったね。クラウド、背、低かったんだね。……可愛いねえ。いつかセフィロスが言ってたけど……クラウドはわたしの話に合わせてこの記憶を作り出したって言ってたけど……この星空は、クラウドが自分で考えた……ううん、思い出したのよ。星がとってもきれいな夜、クラウドとわたし。ふたり、給水塔でお話した……だからわたしは、どんなときでもあなたは本当のクラウドだって思っていたの。わたしはあなたがニブルヘイムのクラウドだって信じてる……でも、あなた自身は信じていない……この記憶だけじゃ足りないね。ねえ、クラウド、それならほかの記憶は？　ううん、記憶じゃない。記憶って頭のなかから無理やりひっぱり出さなくちゃならないでしょ？　だから間違ってたり、形が変わっていたり……でも胸の奥に眠る思い出は違うわ……きっとそれは贋物なんかじゃない。もしそんな思い出を呼び醒ますことができれば……そうだ！　なにかしら、わたしに関係のある思い出は、どう？　わたしがなにか言って、そのことをあなたが思い出すんじゃなくて……クラウドがなにか言って、もし、わたしもそのことを憶えていれば……それがあなたとわたしの思い出……ねえ、なにか話して。なんでもいいから、あなたにとって大切な思い出を……そういえば、クラウドはどうしてソルジャーになりたいって考えたの？　わたしには、あなたが突然決心したように思えたんだけど……」
『……悔しかった……認めてほしかったんだ』
「……悔しかった。認めてほしかったんだ。強くなれば認めてもらえる。きっと……」
「認めてほしい……？……誰に？」
『誰に、だって？……わかるだろ？……ティファにだよ』
「ティファに……」
「……わたし？　どうして？」
「ティファ……忘れちゃったの……あのときのことを？」

「あなたは……ごめんなさい……なんのこと、言ってるの？」
「ううん……いいんだ、ティファ。あのときは大変だったしね。自分のことで手いっぱいだったから、あのときの俺のことなんか憶えてなくてあたりまえだよ」
「……あのとき？」
「俺にとっては大切な……悔しかったけど、すごく大切な思い出なんだ……行ってみる？」

　星空の約束……しかし、それさえも、ティファの想いによって生み出された幻想なのだとしたら……？
　さあ、早く。

「封じこめられた密かな願い……大切な想いは……誰に知られることなく……」

「この窓がどこに通じているかわかる、ティファ？　それじゃ……行くよ」
「わたしの部屋？」
「俺、この日、初めてここに来たんだ」
「そう……だった？」
「いつもは外から見あげてるだけだった」

「おい見ろよ」
「クラウドが来るぞ！」
「あいつ、入ってくる気かな？」

「この日、クラウドが初めてわたしの部屋に？……そうだったよね。家は近所なのに、わたし……クラウドのことあまり知らなかったんだよね。ずーっと小さな頃から仲よくしてたと思ってたのに……そういえば……クラウドがわたしの部屋にいる風景って記憶に……ない。いっしょに遊んだ記憶も……ない。わたしとクラウドとの思い出はいつでも星空の給水塔が始まり……」
「テイファはね、いつでもこの仲よし三人組といっしょだった」
「……そうだったね」
「俺は……みんな馬鹿だと思っていた」
「えっ!?」
「いつもどうでもいいようなことでケラケラ笑っててさ。子どもっぽかった」
「だって、子どもだったんだもん」
「……わかってる。馬鹿だったのは俺なんだ。本当はみんなといっしょに遊びたいのに、どうしても仲間に入れてって言えなかった。そのうちさ……俺はみんなと違うんだ……あんな子どもっぽいやつらとは違うんだって思うようになったんだ。でも……もしかしたら……」
『もしかしたら……声をかけてもらえるかもしれない。そう考えて、みんなのまわりをうろついていた……』
「どうしようもなく捻くれてた。そして……弱かった」
『給水塔にティファ呼び出したあの夜も俺は考えていた……ティファはきっと来てくれない……こんな俺のことなんか嫌ってるって』
「そう……あのときは突然だったね。わたしも……ちょっとびっくりした。でもね……確かにわたしたちはそれほど仲よしじゃなかったけど……クラウドが村を出てからは、あなたのこと、ほんとによく考えたのよ。クラウドはどうしてるのかな、クラウドはソルジャーになれたのかなって。クラウドの記事載ってるかもしれないから、新聞だって読むようになったの」
「ありがとう、ティファ。あとでこいつに言ってやって。きっと喜ぶよ」
「うん！　あれっ？　ねえ、この日、なにがあったの？　なにか特別な日……？」
「この日はね……」
『ティファのお母さんが……』
「ママが……死んじゃった日……」

「ママに……会いたい……あの山のむこう……なにがあるのかな？」
「ニブル山は怖いよ。何人も人が死んでるからね」
「生きては越えられない山……」
「じゃあ、死んだ人は？　ママは山を越えて行っちゃったの？　わたし、行ってみる！」

「どこをどう歩いたのか憶えてないんだ。ティファが足を踏み外して、俺は慌てて駆け寄って、でも間に合わなかった。ふたりとも……崖から落ちたんだ。このときは膝すりむいただけですんだけど……」

「クラウド！　どうしてこんなところへティファを連れ出したりしたんだ！　まったく！　おまえがなにを考えてるのか、全然わからん！　ティファにもしものことがあったらどうするつもりだったんだ！」

「ティファは七日間意識不明だった。死んでしまうかと思った。俺がちゃんと助けていれば……悔しかったんだ……なにもできなかった自分の弱さに腹が立った。それからは、ティファがいつも俺を責めているような気がしてさ。俺は荒れていった……誰彼構わず喧嘩を仕掛けて……そんなときだ、セフィロスのことを知ったのは。セフィロスのように強くなりたい。強くなれば、みんな俺のことを……強くなりさえすれば……ティファだって俺のこと認めてくれると……」
「そうだったの……クラウド。ごめんね、クラウド。あのときのこと、わたしがちゃんと憶えていれば、もっと早くに……」
「ティファのせいじゃないよ。俺のせいだ」
「でも、あれは確か……わたしたちが八歳のときよね！　そうよ！　見つけたわ！　クラウドは五年前に創られたんじゃない。幼い日の、その思い出は作りものなんかじゃないもの！　クラウド、頑張って！　あと少しよ！　本当のあなたを捕まえるの！　行きましょう、もう一度、ニブルヘイムへ！」

　真実はすぐそこにある。もうすぐ答えが手に入る……。

「待って、クラウド、どこへ？　どこへ行くの？」
「……魔晄炉……？　魔晄炉へ！　五年前の魔晄炉へ！」

「あっ！　クラウドじゃない！」
「ザッ……クス……ザック……ス。ザックス……」
「思い出したのね！　そうなのよ！　セフィロスとニブルヘイムに来たのはザックスだったのよ！　それじゃ、クラウドはどこにいたの？　ねえ、クラウド、あなたは……これを見ていた？」
「見て……いた……」

「ぐうぉぉ……だ、誰だ」
「母さんを……ティファを……村を返せ……あんたを尊敬していたのに……憧れていたのに……」

「クラウド!?　そうだったんだ……いっしょにいたのね。わたしを見ててくれたのね。うん、憶えてる。そっか……クラウドだったんだ」

「なあ、クラウド、気分悪いならマスク取っちゃえば？」
「ああ……」

「そう……これが……俺だ。俺、ソルジャーになれなかった。絶対なってやるって村を飛び出したのに……恥ずかしくて……誰にも会いたくなかった。俺は……」
「……来てくれたのね……約束、守ってくれたのね。ピンチのときにちゃんと来てくれたんだ！」
「ごめん……行くのが……少し遅れた」
「いいのよ……クラウド……」

「貴様ごときに……」
「クラウド……セフィロスにとどめを……」
「セフィロス！」
「図に……乗るな……」

「そ……んな……馬鹿な……」